名字デフォルトデフォルトの朝は早い。
なぜなら夫・毛利元就が日輪を見るために、日の出前には起き出すからだ。
彼の動作でたつ音と、彼の見る日の出の陽光によって嫌でも叩き起こされてしまう。
その分、就寝も早いが、人間朝はゆっくりしていたい。
日輪信仰のないデフォルトとしてはそうなのだけれども
それでも元就の習慣をやめさせるほどの情熱は無い。
だって、元就さんを説得しようと思うと、かなりの時間と労力とられるだろうし
そもそも説得できる気がしない。
というのがデフォルトの考えだが、まぁ要約すると面倒くさいだ。
元就に口で敵う気がしないし、敵わないのに無駄に戦いたくは無い。
だから今日もデフォルトは日の出の陽光で目覚めて、ふぁあと間抜けに欠伸をした。
そのデフォルトの欠伸を漏らす声に、邪魔だと言いたげに元就が振り返る。
けれどデフォルトも慣れたもので、鋭く目を細める元就に向かって頭を下げ
彼女は朝の挨拶をした。
「おはようございます、元就さん」
「………欠伸をせねば起きられぬのか」
冷たい物言い。
日輪を拝む邪魔をするといつもこうだ。
叶うんならお日様と結婚したかったんだろうなと思いつつ
デフォルトは彼に構うことなく朝食を作ってきますねと、リビングへと足を向けた。






今日は何を食べていこうか。
そして昼は何を食べようか。
考えながらまずは冷蔵庫を開ける。
毛利夫妻の生活費は、基本元就の方から出ているので
稼いでいるのに養われているデフォルトとしては、家事ぐらいはこなしたい心持だ。
だから、共働きだというのに元就の方には一切協力を求めず
料理洗濯掃除を黙々とこなして、日々立派な兼業主婦として活動しているのである。
…まぁ、これもそれも新婚期間中だからであって、いつまでこれが持つのかという方が
重要なのだろうけれども。
自分事ながらいやに冷静に思って、デフォルトはもう一度あふぁと欠伸を漏らす。
あぁ眠い。
襲い来る眠気をやり過ごしながら、デフォルトは冷蔵庫の中を眺めた。
目に飛び込んでくるのは、半分消費されずみのベーコンと、卵。
あとは鶏肉があるけれども、朝からそんなものを使用するのはちょっと。
スタンダードに、ベーコンエッグとパンとサラダで良いや。
基本的に、毛利家の朝というのは和でなくてはならないとか
洋でなくてはならないとかいう決まりごとは無い。
夫の方に確認済みなので、前みたく言われてないだけだとかそういうわけでもなく。
ただ、シリアルは好かぬらしい。
手抜きという感じがするのだと。
他の手軽なインスタント食品も駄目。
もっというならば、既製の総菜も嫌らしい。
何が入っていて、どういう手順で作られているのか不明なものなど好かぬと。
デフォルトの方はどうでも良い事柄であるが、そこ一つとっても
毛利元就は、結婚に向かぬ男であるように思える。
「まぁ、結婚してしまってるのだけど」
重苦しい調子で無く、軽い調子で言葉を吐いて
デフォルトはベーコンと卵、それから野菜室からレタスを取り出して並べ置く。
すべて国産品であるので、材料費が毎回馬鹿みたいになるが
それが屁でもないくらいに元就は金を家に入れるので問題ない。
甲斐性のある我儘は我儘でないの見本のような人間だ。
ただそれに甘えて堕落してしまえば、恐らくは簡単に捨てられるだろうことにも予想はつく。
まったく扱いにくい人間だこと。
自分のことを棚に上げ、元就を扱いにくい呼ばわりすると
デフォルトはレタスをはがしてサラダを作り始める。
そしてふと今日の昼はレタスチャーハンにしようと思い立ち
レタスを余分に剥くことにした。
レタスチャーハンの具材は、まったく朝と一緒では気まずいので
鶏肉を冷蔵庫から取り出してきて、ベーコンを切るついでに叩いて鶏ミンチにする。
…朝早くて時間が余るからこそできる芸当だ。
普通に寝起きしているのであれば、こんなの朝やっていたら時間が足りなくなる。
朝早いのも良けり悪けり。
冷凍してストックしてあるご飯を解凍して、その間にベーコンエッグを作りサラダを盛る。
ついでにパンを焼いて…チャーハンを作るのはご飯を食べた後にしましょう。
じゅぅっと音を立てながら、フライパンの中でベーコンエッグが良い具合になったのを確認して
デフォルトがそう判断するのと同時ぐらいに、元就がおもむろに寝室から出てきて
ダイニングテーブルの自席へとついた。
それを合図に料理を運んで、デフォルトも席へつく。
「いただきます」
手を合わせて、特に会話もなくご飯を食べて。
食べ終わったならば、元就は新聞を見だすので
その間にお昼のお弁当をつくって冷まし(今日はチャーハン)
洗い物を済ませて出勤の準備を済ませて、時間が来るまでごろりとする。
大抵はリビングで朝のニュース番組を見るのだけど
今日は気が向いたので、ダイニングテーブルの自席に座って新聞を読む元就に倣って
自身の席で料理雑誌を読みふけってみることにした。
お弁当でもう悩まない!という大きなオレンジ色の文字が書かれた薄い雑誌をめくって
中身を黙読する。
脱マンネリ。というほど弁当を作ってはいないが、なるほど。
メインのおかずのバリエーションを広げたい、とか痛むのが心配・汁漏れをしない為にはとか。
為になる情報が書かれていて、主婦になった後はこういう雑誌は大変に役に立つようだ。
気紛れで買ったが、購読しても良いかもしれないと
唇に指を当て、ふんふんと頷いていたデフォルトだが、ふと思い立って
ちらりと元就を見る。
……………伏し目がちに新聞の文字を読む元就は、相も変わらずの
他者を寄せ付けぬ雰囲気をまとっていて
デフォルトは、何か食べたいものはありますか?と声をかけるのをやめた。
わざわざ怒られに行く趣味は無い。
…そういえば、毛利元就に踏まれ隊!などというふざけたネーミングの
非公式ファンクラブが社内にあるという噂を耳にはさんだことがあるが、本当だろうか。
下らぬ情報を思い出して、もう一度元就の方を見る。
綺麗な、冷たい横顔。
しかし、冷たいとは言ってもそれは他者を寄せ付けていないだけの話で
好んで他人を罵って遊んでいるわけではないと思うのだけど。
切り捨てはするが、Sではあるまいと夫を思って
デフォルトはことんと首を傾げる。
「…SはスレイブのSで、MはマスターのMなのに」
「…朝から何を呟いておる…疲れさせるでないわ」
「あ、聞こえましたか」
「この距離で聞こえぬと思う方がおかしい」
ばさりと、読み終わったのだろう新聞を畳んで、元就が小さく息を吐く。
そうしてデフォルトの方を半眼で見やったと思えば
行き成りに綺麗に畳んだ新聞をこちらの顔面へと押し付けて席を立った。
「わぶっ」
「…朝からSMのことについて、思いを巡らすような妻を持った覚えは我には無い。
慎むがよかろうぞ、デフォルト
「あぁ、はい」
なんとなく思ったことを呟いただけなので、こだわりも何も無くデフォルトは頷く。
その従順な様子に目を細めて、元就は時計に目を走らせた後
「行くぞ」
と、出勤の時間だとデフォルトを促した。



まぁ、こんな具合に毛利デフォルトの朝は始まり、平坦に毎日を過ごしていくのである。