名字デフォルトデフォルトと言う人間は、スルースキルが高い。
その能力の理由は人によって様々あるだろうが
彼女においては、他人への興味のなさが理由としてあげられる。
他人が何をしていようが、別段どうでも良いからスルーできる。
関心がない。
興味がない。
どうでもいい。
それだから、毛利元就がどうしようが何をしようがどうでも良い。
普通の人間ならばそれにいくらも寂しさを覚えるのだろうが
彼女の伴侶は毛利元就である。
名字デフォルトのそういう性質を分かった上で彼女を選んだ彼は
自分に興味がない故に干渉してこない彼女との生活に、おおむね満足をしていた。


毛利元就の朝は、日の出の少し前から始まる。
シャッと開けたカーテンの向こうの空が白じみはじめたのを見守り
そのまま太陽が昇って顔を出すまでを、まず見届ける。
そうしていると、妻の名字デフォルトが昇る朝日の陽光の眩しさに耐えかね
起床してくるので、彼女が朝食を作り終わるまでは、日輪観賞を続けるのだ。
日輪の美しさを確認した後、毛利は歯を磨いて、顔を洗い、ダイニングのテーブルに着く。
すると、朝食が前に置かれるので(この日は粥と、味噌汁、梅干し、瓜の漬物)
それを黙々ととり、二人で出勤の準備をして、出勤する。
大体の場合、特に会話はその間ない。
必要性がないからだ。
愛恋といった情も無く、ただ打算・利益のためのみの婚姻相手にそこまでする理由がない。
それでも、毛利元就という人間は、名字デフォルトを娶ったことを意外と良く思っていた。
なぜか。
ご飯がおいしいからだ。
余計な化学調味料の入ったものは好かぬという毛利の考えを
はいはいと二つ返事で許し、彼推薦の食料品で
彼が食べたいものを作る名字デフォルトの料理はおいしい。
おいしい理由の中のいくらかには、毛利推薦のものが良いのもあるけれども
それでも名字デフォルトの料理の腕前は中々結構なものだったのである。
我は良い駒を得たわ。
今日の瓜の漬物が良く漬かっていたのを思い出して
予想外だった名字デフォルトの料理の腕に、僥倖を喜ぶ毛利元就。
そんな彼の中で、名字デフォルトは子を産ませ、毛利の家をつなげるための道具から
住み込みの料理人へランクアップを遂げているのだが
悲しいかな、彼にはその心を吐露する相手が居ないので、誰も毛利の妻への扱いには気がつかない。
妻本人も、毛利の扱いが全く変わらないので、そのようなこと思ってもいないだろうが。
それでも。



「そういえば、もうすぐボーナスの時期ですね」
「同時にヒアリングもあろう。ヒアリングシートは提出済みであろうな」
「全部埋めて出してますよ、毎度のことながら悩みましたが」
「ふん。何を悩む必要がある。己から見る己の評価、会社への要望を書けばよいだけだというに」
昼食をとりながら、ふと思いついた顔をして話しかけてきた名字デフォルト
鼻で笑ってやると、彼女は考えるそぶりも無く、まぁそうですねぇと頷く。
スルースキルの発動でなく、毛利の発言を正しいと思って彼女は今、毛利の発言を肯定した。
きちんと日々働いていれば、会社へ望むことは山のようにあろうし
自分を見ていれば、自分への評価も正しく容易く出るはずだ。
そういう意図で言った毛利の発言の、その物言いでなく意図を読み取り頷く名字デフォルトの頭の回転は悪くない。
喋っていてもイラつかない相手。
「あぁ…でもボーナスですか…。何買おうかな…。食器洗浄機…?」
「そのようなもの、生活が始まる時に買えばよかったであろう」
「いや、お金があったら欲しいな程度で、そんな急を要するものでもないんです」
「まぁ良い。貴様が稼いだ金ぞ。好きにせよ」
「はい、それはもう。でもそろそろ子供ができた時用の貯蓄について話しましょうよ、毛利さん」
「必要ない。計画はすでに立ててある」
「………私、それ、さすがっていえば良いんでしょうか。それとも用意周到すぎるといえば?」
「どちらでもよいわ」
会話の応酬もそこまでだった。
切り捨てるように、いや、切り捨てて、貴様からの評価など必要ない。
毛利がそういう意味を込めていえば、今度はスルースキルの発動でもって
はぁそうですか、まぁそうでしょうねと名字デフォルトはそれを流す。
毛利元就はこういう人間だから、気にしてもしょうがない。
そう思って流すからこそ、名字デフォルトは他の人間のように、毛利に怒ったりはしない。
お互いが無関心だからこその、静かで穏やかな日々。
繰り返されるルーティンワーク。
それを五月蠅く騒がれる毎日よりかはよほどいいと思いながら
毛利は名字デフォルトの作った弁当を食み、おいしいと思った。