「そういや、明日は晩飯食えねえんだ」
ご飯が終わっても、なんとなくだらだらして一緒に居ることが増えた。
いい加減、ダイニングとリビングの仕切りを外して
一緒にテレビ見えるようにするかなぁなどと
ずぶずぶに嵌り込みそうな思考を、無意識のうちにしていた私は
彼のいった言葉に、頬杖つきながら視線を向ける。
「あ、そうなの?」
「おう。同僚に誘われててよ。飯食いに行ってくる」
「あぁそりゃ行かないと。横の繋がり大事よー」
笑いながら言ってやる。
うちの職場は、年が割と離れがちなのでそういうお付き合いも無いし
横の繋がりも無いのだけれども、あるならあるでお付き合いした方がよろしい。
特に先生商売だと、そういう繋がりも大事になってくるだろうし。
繋がりがないと情報が入ってこない。
入ってこないということは、自分だけ何某かあっても対処できないということだ。
でもまぁ、長曾我部さんならば、何ら心配いらないでしょう。
この人は、人当たりが良くて懐こい。
大抵の人間には好かれるだろうと思いつつ、私は明日の献立を考える。
「…明日ちゃんちゃん焼きにしようと思ってたけど、どうしようかな…」
「……………美味そうだな」
「明後日にするから。ちゃんと食べさせるから」
考えていた献立を漏らすと、横目でちらりと見られた。
気持ちは分からんでもない。
自分が食べられないものと言うのは、美味そうに見える聞こえるものだ。
ダイニングテーブルに肘を置きつつ、そう言うと
長曾我部さんはそうしてくれと頷いた。
「でも、何処に行くかって、もう決まってるの?」
「おう、なんつったか。………テンダロッサ…?」
首を傾げながら、長曾我部さんが答える。
彼の口から横文字が出るのももう慣れてしまった。
この人は続きながらも別のお人ですので。
元々、順応性も高そうであったし。
と、まぁその辺りはおいておいて、テンダロッサ?
この辺りにあるテンダロッサは、私が知る限り一店だ。
けれども。
「…一緒に行く人って、女の人?」
「いや。男三人だぜ。男に決まってんだろうがよ」
首を傾げて私が問うと、彼はごく当然の顔をして答える。
あぁ、うんそうだよねぇ。
長曾我部さんの態度から男の人だとは思ってたんだけど。
でも、男三人でテンダロッサ…?
私がしってるテンダロッサは、駅前にあるイタリア料理店で
割とこじゃれた内装が女の人に人気のお店なんだけど……。
うーん…。
でもまあリーズナブルな価格設定と、それから料理の方もそこそこってことで
内装以外でも人気があるし、おかしくは無いのかな。
それに、この界隈じゃなくて、どこか別の所のお店なのかもしれないし。
そうやって一人納得しながら、私は楽しんできなよと長曾我部さんに向かって声をかけた。
それに長曾我部さんが頷きながら、でもその後にぽつりと
「行くのは良いがよ。俺はあんたの飯の方が良いんだがなぁ」
と、呟いたのは聞こえなかったことにしようと思う。
…いや、なんとなくよ、なんとなく。








…と、言うのが昨日のことである。
久しぶりに一人なので、ちょっと自炊するのが面倒と思ってしまった私。
だからたまには外食も良いかと思って、どうせならジャンキーなものでも食べようと思って。
そうして、二時間ばかし買いものをした後
お店でご飯を買って帰ろうと思った私は、むっと眉を寄せていた。
何でかと言われると、ハンバーガーについて悩んでいるからである。
「…リッチオアノーマル…」
ジャンキー=ハンバーガー。
これは普遍の定理であり、誰にも否定できる所ではない。
だから、私はハンバーガーを食べようと思った。
ジャンキーだから。
ここまでは、悩む所はどこにもない。
しかし最近では、中々のお値段でなかなかの味を提供するハンバーガー屋さんもあるというではないか。
ジャンキーなハンバーガーなのに、リッチ。
食べてみたい。
でもそれは、ジャンキーなものが食べたいという最初の考えに沿っていないのではなかろうか。
大体、リッチ系のハンバーガー屋さんってちょっと歩かないといけないし。
駅から一分の、ノーマルハンバーガーチェーン店か
それとも家の方とはちょっとずれる、徒歩十分のリッチハンバーガー店か。
顎に手を当て熟考して、それから一つ頷いて、決める。
いいか、リッチで。
たまの外食だし、美味しいものを食べたほうがよろしかろう。
そうと決まれば早速と、歩いてリッチなハンバーガー屋さんへと向かう。
ずっとリッチなリッチなと言っているのは、名前を覚えていないせいだ。
横文字だと、中々名前を覚えられないよね。
その横文字が、英語で書かれているのならば猶更。
ちなみに昨日のテンダロッサを私が覚えていたのは
一度行ったことがあったからと、それから看板がイタリア語で書かれている店名の下に
少し小さめの大きさでカタカナで店名が書いてある親切設計をしているからだ。
それが印象に残って覚えていたのだけど。
「あぁ、そう言えばこのへんだったっけ」
よくよく考えて見れば、リッチなハンバーガー屋さんはテンダロッサの近くにある。
確かこの辺の角っこにお店があったような、とキョロリとあたりを見回した私は
お店を発見して、そして思わず立ち止った。
そう、立ち止まってしまった。
思わず。
イタリアの街角のお店を意識して作ったのだろう、こ洒落た感じの店の入り口で
店から出てきた三組の男女が談笑をしている。
合コンだったのかな、というような服装の女の子が
一人の男の人に携帯を持って笑顔で話しかけていて、その女の子に困った様な顔をしているのは
「長曾我部さんだ」
名前を呼んだ瞬間、それが聞こえたかのように彼がこちらを向いて
そうして目を丸くした彼の口が デフォルト と、微かに動いたのが見えた気がした。

…おかしいな、私そんなに目、良くないんだけどな。