「………つーのが、体感的に二十三年前のことだな」
「……………………その結果がこれかよ!!」
私は目の前の人から聞いたここに居た彼の最後に頭を抱えてしゃがみこむ。
その拍子に、持っていた引っ越しそばが玄関に落ちて、目の前の男が「あ」と声を上げた。
「あーなにやってんだ、あんた。食いもんが勿体ねぇ」
「そういう問題じゃないし、私が今受けた衝撃を慮ってくださいませんかね、長曾我部元親さん!」
「おう。前もそういう名前で、今回もそういう名前なんだから、よっぽどこの名前に縁深いよな、俺も」
そう言って笑う彼は、白銀の髪に眼帯、精悍な顔つき、高い背丈。
どこからどう見ても、この間まで部屋に居た長曾我部元親その人で
けれども彼に王様の威厳は無い。
だから、これは別の人。
けれど、ひと続きの人。
彼曰く、そうやって死んだら本当に死後の世界があって、かくかくしかじかとお願いをしたら
こういう結果、つまりは記憶を持ったまま転生するということになったのだという。
んな馬鹿な。
けれどもけれども、事実彼がここに居るのは本当で、姿かたちがぴったり同じ
だが、相違点は確かにあるとくれば、これは……一体どう判別したらいいものか。
困り果てながらも私は彼の顔を見る。
長曾我部元親。
今回もそういう名前で、私の横に引っ越してきて、今度から学校の先生なのだという。
玄関を開けた後、呆然とする私に引っ越しそばを渡しつつ
一気に彼が喋りたくった情報を整理しながら
私はふと気がついてしゃがみこんだまま口を開く。
「…ひょっとして、買い物に出た日に隣を見てたのは長曾我部さんですか」
「おう」
「…………神様に頼んだ結果がこれとはいえ、マジでやるとか…ストーカーチックですよ…」
「だってよ、デフォルト。頼んだ結果がこれなんだから、やんなかったら地獄に落ちるかもしんねぇだろ」
わぉ、迷信深い…。
だけれど、本当に神様に頼んだ結果なんだとしたら…
………駄目だ、無神論者的にはこの展開受け入れられない…!
何ですかこれは、いつかの出会い頭に鼻っ柱をぶん殴った罰か。
罰か、そうか罰だな。罰なら仕方ない。だって罰だもの。
うん、もうそれでいいや………理解できないし。
あー女子高生のお嫁さん欲しい。癒されたい、今物凄く。
常識の範疇を超え切った出来事に、理解を放り投げて
私はいつかしたのと同じように現実だけを認めて、立ち上がって
―長曾我部さんが押さえ続けていた玄関の扉を押さえ、苦笑する。
「………まぁ、あれです。立ち話も何なので、中でコーヒーでもどうぞ」
「…ん、じゃあ、遠慮なく、邪魔させてもらうぜ」
一瞬虚をつかれた顔をした後、頷く長曾我部さん。
その顔に、最初会ったときに受け入れると話した時の表情を見て
私はそこで、靴を脱ぐ長曾我部さんに向かって「おかえりなさい」と声をかけたのであった。


…いや、神様とか認めないけどね。
かみさまおねがいで、転生してくるってどうなのよ、それ本当。

でもまあ今後も隣人として仲良くやるってそういう話ですかそうですか。
…悪くないとは、思いますよ、それについてだけはね!


だから私は彼を家の中に入れる。
また始まるおかえりなさいとただいまが繰り返される日々。
一つ違うのはさよならの匂いがしないことで
まぁ、続く限りはそれが続けばいいなと私は一つかみさまにおねがいをした。
…いやいや、うん。かみさまなんて信じないけれども、一応ね。