週末私たちはまた海に居た。
前回と違うのは、間に流れる空気がシリアスでないところだろうか。
長曾我部さんは凪いだ顔をして、同じように凪いだ海を見ている。
「海だねぇ、長曾我部さん」
「海だな」
流れる空気はまったりとしている。
いつもよりも、よほど。
そのなかに少しの寂しさが混じっていると思うのは、私の思い上がりだろうか。
昨日、明日は休みだから海に行こうと約束をして
そうして朝目覚めた時には、部屋の空気が様変わりしていた。
どこか、違う。
そうしてその空気に私も長曾我部さんも、長曾我部元親という人が
『帰れる』ことを知ったのだった。
「いつ帰れるのかなぁ」
「わかんねぇが、まぁ、今日中には帰れるだろ。
今日じゃなくても、明日には」
「うん、そうだね」
一ヶ月にも満たない生活。
行った交流も、ただひたすらにただいまと言ったならば、おかえりと言ってもらって
一緒にご飯を食べて、後半から髪の毛を洗って乾かしてやるようになっただけだ。
けれども、共にあれば人は繋がったような気になってしまうから。
私と長曾我部さんの間には、友情ともつかない何かがあった。
決して恋だとかそういうものではないのだけれども。
家族に似た何かというか、なんというか。
言葉にしにくい感情を、私は彼に抱いているし、彼もまた私に抱いているのだろう。
けれども、残してきたものと生きてきた重さを思えば
別れないという選択肢は無い。
だから、同じものをせめて見ようと海に来て
同じものを見ている。
「…海が青いね」
「夜は黒いんだぜ。朝日が昇った時には、綺麗な水色になる。
浅瀬に足を浸した時の、透明は綺麗だ」
「うん。そのうち見に来る」
微かすぎる名前のない感情を共有する人に頷くと
長曾我部さんは嬉しげに笑った。
時間があれば、多分、家族愛とか友情とか、そういう名前もついたのだろうけど
まぁ仕方がない。
だから、私は長曾我部さんに向かって、精いっぱいの笑顔を返した。

そうして、帰ってきた家の中に、この間とは反対に、長曾我部さんは私よりも先に
玄関をくぐって
「おう、おかえり」
「ただいま」
約束通りにお帰りをくれる人が、帰っても元気に幸せだと良いなぁと、私はただそれだけを願い
かみさまにおねがいと思う。
まぁ、かみさま信じていないんだけど。