さて、穴から降ってきた見知らぬ男との同居生活であるが、順調である。
いきなりの同居を始めて一週間と少しがたったが、大きな問題は無い。
服も買い与えたし、こちらでの常識も教えた。
追加で質問や、教えることはあるけれども、それはそれでまぁおいおいと。
最初はなんやかんやと言いながら警戒心を捨てていなかった彼も
私に敵意も何もないことを心底理解したのか、ごく普通の人並みの警戒心で接してくれている。
特に問題は無い。
私は日中仕事に行っているし、長曾我部さんは日中、与えた機械類をいじって遊んでいるようだ。
(持ち帰って新兵器に適用する気満々の呟きが聞こえるが、無視する。
私は、長曾我部さんが元居た場所への干渉とか、その辺りにはこだわらないことにした)
関わるのは、最初につきつけた要求どおりに、帰宅後長曾我部さんが私を出迎え
一緒に食事を取り、時折話をするときだけ。
近づきすぎず、しかし無視しない程度の近さで、長曾我部さんと私は生活している。
………長曾我部さんと私の間は、ごく穏やかだった。
穏やか過ぎるほどに。
本来であれば、長曾我部さんからすればいつ、帰れるのか。
私からすれば、いつ、帰るのか。
そういう不安がこみ上げてくるべきで
そういう話題もいくらか出てきて当然だとは思うが
そんなことは、頭を掠めもしなかったし、その類の話題はお互いの口にのぼることもなかった。
焦りも恐れも恐怖もない。
なぜかといえば、理由があって
なぜだか私は(彼も)、長曾我部さんが長居しないという、奇妙な確信を得ている。
必ず彼は帰る。
一年とか二年とか、そんな長期スパンでなく
短い、ごく短期の逗留とか骨休めとか、そういう具合の単語で、表せる期間で、必ず。

「まぁ、長くて一ヶ月ぐらいだよねぇ」
「俺が居るのがか?」
夕食後、まったりとリビングでテレビを眺めつつ呟くと
その言葉を拾って、男がこちらを見てくる。
その視線に、ちらりと横目を走らせ、頷く。
「そう。なんとなくだけど」
「まぁ、そんぐらいだろ」
もっと短くてもかまわねぇけどなと、長曾我部さんがぼやいた。
「殿様だと色々大変?」
「いや、死んだことになるだろ。あんまり長く空けると」
「あぁ…」
その言葉に、彼の来た経緯を思い出して、私はそっと目をそらす。
…新兵器の起動実験で爆発後、行方不明になった状態で
長く空ければ、遺体が見つからなかろうが、普通葬儀出されるね…。
何を言おうか迷ったが、私は結局無難に
「…爆発時点に帰れるといいよね」
「…巻き込まれたら大怪我しねぇか?」
「…………爆発がおさまった直後に帰れると良いよね」
「帰るときに、そう祈っといてくれ」
ひらひらと手を振った長曾我部さんは、ふと窓の方を見る。
そして、そのまま何かを探すように視線を彷徨わせていたが
それも一瞬のことで、彼は自嘲するように微かに笑んだ。
その様子に、直感的に、海を探していたのだと私は閃いたけれど
合っているかどうかも定かでなく、また連れて行けるような時間でもなかったので
休みの日に、気が向けば連れて行ってあげようと、ぼんやりと思うだけに留めた。