さぁ、初めに一つ言い訳をさせてもらえるならば。
女子高生がエプロンつけて「お帰りなさいあなた」とかって最高じゃないですか。
あ、違うこれ結論だ。
あのーあれ。
疲れてると、癒しが欲しくなるじゃないですか。
まぁ癒しって言ってもね、そりゃあ色々ありますよ。
犬でも猫でも鉄道でもフィギアでもエロゲでも何でもいいよ。
死体だっていいし目ん玉だって良いよ。
だって疲れてんだもん。
癒されたいよね!癒されたいよね、皆!!
うん、そう、私も癒されたい。
癒されたいのよ。
あぁ、うんそう。
白いふかふかの毛の犬でも、黒い毛並みの気の強そうな猫でも文句は無いけど
とりあえず今日の私は、女子高生新妻気分だった。
エプロンつけて、お帰りなさいあなたーみたいな。
それが駄目なら、あれ。
古きよき時代の女の子との遭遇方法。
突然上から女の子が、ドキ・ポロリもあるよ、みたいな!
そのまま同居、おかえりなさいあなたーみたいな。
いいじゃんいいじゃん超いいじゃんとか。
そういう気分だったわけですよとにかく。
お家の玄関を開けると、お帰りなさいあなたで美少女がうっはー。
部屋の中からは夕ご飯のいい匂い。
くはーたまらんねこりゃあ!!


「ていうわけなんですよ」
「あぁ」
「そういうことです」
膝を付き合わせたごついあんちゃんに、私は思いの丈をぶちまけて同意を求める。
酒くせぇと、男の声が聞こえたが、私はそれを無視した。
そりゃあ、二升開けたら酒臭かろう。
そして今日の私はヨッパライだ。存分に絡まれるといい。
赤ら顔のまま、したり顔でそういうと、男はごく不満そうな顔をする。
「で、それでなんで俺が殴られるんだ」
「だって、あなたそりゃあ。聞いたでしょ。
突然上から女の子が、ドキ・ポロリもあるよ、みたいな!って」
「あぁ」
「だから」
「なんでだよ、だから」
「だからぁ、突然上に穴が開いて、しかもそれであれですよ。
人が降ってきた日には期待するじゃないですか。
あれ、ちょっと早いクリスマスプレゼントに、サンタさんからプレゼント来ちゃった☆みたいな」
「……………単語の意味はわからねぇが」
「はい」
「だからって人の顔見た瞬間に、思いっきり鼻っ柱殴るこたぁねぇだろ」
「あぁ、ごめん」
げんなりした表情をして、銀髪の男は顔を思い切りゆがめた。
あぁ、うん。
だってねぇ、まったく。
「いやね、お兄さんそれはそれで理由があってですね」
「あぁ?」
私はよくおばさま方がするような、手招きするかのごとき動作をして
うふふと笑う。
「いやですね、わたくし見ての通り、わりとお姉さんなんですわね」
「……はぁ」
「それで、世間一般的には五年も六年も勤めてりゃ、そりゃあお局様なわけで
あれですわね、新人教育なんかも回ってくるわけで」
ついでに言うと、責任のある仕事なんかも回ってくるわけで
期待重大、ボーナス一杯みたいな」
「ぼーなす」
なんだか分かって居なさげな顔で、男が呟くので
私はなんだか面白くなって、男の肩をひっつかんだ。
「おい」
「………それでですね、あれです。
でっかいプロジェクトやって気がついてみたら
納期が迫ってるのに余裕ぶっこいてるやつらが十分の九みたいな。
完成何割ですか、えぇ五割ですありがとうございます。
仕方が無いから頑張って、あとから数えてみりゃ
私がやった部分が七割ってそりゃないぜって感じしませんか、しますよね。
おまけの残り三割がひどいひどい。
残り三割の対応?
私ですよ私。ははははは。
今日もクライアントから怒られたの、ははは。
おまけに新人は入ってきたかと思えば立派なDQN。
ありがとうございます。
まさかトイレにまで押しかけられるとは思いませんでしたが。
どうでもない電話で女子トイレの中に男子がのこのこ入ってきて
お電話ですはないわ。
すげぇよお前、逆に尊敬するよ。
しかも電話してみたら、あら明日でも良かったのに。ありがとう死ねよもう。
おまけに次の新人入ってきてみたら、水汲みも新聞取りも出来ないの。
どうしろっていうの、なにをすればいいの。何を教えたら良いの良くわかんないの。
なにがすごいって、今言ったの全部今日起こったからね。
バラしてくれたっていいじゃないのよ神様。
で、今言ったの起こしたの全部男だからね。
今日の私は男が憎い、そういう理由だよおにいさん。
しかも、しかもさ。
なんで女子高生つってるかって言うと、あれなの。
隣の五割プロジェクトのうちの一人が、高校生食ったとか話やがんのね。
なんだよ高校生とか。
お前それやってる間に仕事してよ。
それじゃなかったら、紹介してくれてもいいいじゃないの。
私だって高校生癒されたいよ。
女子高生とかさぁ。
ていうかなんでもいいよ、家でお帰りって言ってくれる人が欲しいよ。
つまんないよ、家帰ってきて一人でご飯食べて、一人で仕事の愚痴考えて
一人でお風呂入って一人で寝るのさぁ…。
自棄酒飲んで帰ってきたって、誰が相手してくれるわけでもないし。
おかえりぐらい言ってくれたって」
ぐずぐずぐずぐずと沈み込むと、向こうで男の戸惑った気配がする。
それにしてもなんだろう、これは。
酔っ払いの幻覚にしてはいやにリアルだし。
でも家に帰った途端、上から人が降ってくるって
はははまさかそんな現実。
思考のループに陥ろうとする間際。
「あーなんだ、おかえり?」
疑問符のついた労わりの声がふって来て、私はまぁいいかとそのまま床に倒れこんだ。
まぁいいや。明日、朝起きてから考えよう。
遠くでおい、どうすんだよこの状況!という慌てた男の声がしたけれど
私はまぁまた明日にしようよと、眠りの淵に立ちながら男に返した。
まぁ、いいじゃない。また明日また明日。

























で、先延ばしにした挙句、私が明日の朝驚くのはまた別の話。
そんでもって、明日の朝に名前を聞く、長曾我元親さんに
ながらくおかえりといってもらう生活を始めるのも、また別のお話。
…いやでも、ちょっと報告しておこうか。
しかしあれだよ、女子高生がとかいう戯言を言い続ける女に殴られて
怒らない人材がふってきてよかった。
という話を彼にしたら、怒ろうかと思ったけど、話を聞いてあんまりにも可哀想になった。
という答えが返ってきたので、とりあえずなんとなくどついておいたのよ。
かわいそう言うな。
………と言ったなら、はははと大口を開けて笑うのだから、心広いよね、この人。
まぁ、上手くやってますって言う話。