ほうほう、蜜柑を剥いて、口の中に放り込んであげつつ
ご飯を食べて欲しいとお願いをしたならば、姉上が作ってくれるならばと言われて
それで食べてくれるならと承諾し、故に今日はお弁当とな。

いつもはコンビニパンなのに、今日に限って珍しく弁当を持っている友人から
聞きだした理由に、私は一つため息をついて。






「それは、姉弟の範疇を超えてるだろ」
さらりと言い切ったのは前田慶次だ。
その前に居る豊臣秀吉と、竹中半兵衛もそうだろうというような表情でカードを切る。
「僕は三枚ドロー」
「我は二枚」
「俺、無しで良い」
「良いのか、慶次。揺さぶりならば、無駄だ」
「揺さぶり?降りるなら今って親切にしてるんだよ、秀吉」
手に五枚のトランプを持ち、三人で机を囲んでやっているのはポーカー。
賭けているのは、明日の体育後のジュース。
一番勝ちが、二番三番からジュースを奢ってもらえるという
実にたわいない景品だが、やはり無いよりかは、あるほうが燃えるというものだ。
高校生らしくそのような遊びごとに励みながらも
三人は先ほどの話題を続ける。
「三成って、あれだろ。秀吉に何でか知らないけど傾倒してる、あの三角の」
「慶次君。君と違って、彼は秀吉の素晴らしさを理解する賢い子だよ。
何でか知らないけどとは、相変わらずだね」
「止めよ半兵衛」
「でも、秀吉」
「我のことはさておき、慶次が愚かしいのは昔からだ。
捨て置け。お前が心を乱すほどのことではない」
「秀吉。慶次君なんかを君がかばうことはない。
…君は優しすぎて、僕は時折心配になるよ」
「…うん、あのさ。秀吉。お前は俺に喧嘩を売ってるのか・かばってるのかどっちだよ。
あと半兵衛はノーマルなら、秀吉見つめてキラキラすんなって。
そんなだから、顔が良いのに恋されないんだろ、お前」
カードを捨てて、変えながらも見つめあう二人に突っ込んで
慶次ははぁとため息をつく。
全くこの二人ときたら。
いつもの通りの二人に、いつもの通り気疲れして
それでも慶次は二人に向かって、で。と言う。
「俺にわざわざそういう話題を振ったっていうことは
どうにかしろってことなんだろうけど、それあんまり触んない方が良い気がすんだけど」
「やはりそう思うか」
「そういう微妙な所に嘴突っ込んでも、上手く行かせられる気がしない」
手札をぴらぴら指先で動かし振りながら言うと
半兵衛がほう、という表情をしてこちらを見るので
慶次は渋い顔をして彼を見返す。
「…半兵衛、あのさ、俺も別に考えなしに、人よ恋せよ!って
あっちこっちに嘴突っ込んでるわけじゃないからな、言っとくけど」
「僕はそう思っていたから意外だという顔をしたのだけれどね」
さらりという半兵衛は、相変わらず自分に喧嘩を売っている。
秀吉の友人、しかも自分と同等程度に親しい。というのがよほど気に入らないらしい。
けれども、それでも秀吉が居るならば、こちらがいようがいまいが関係なく
彼の傍にあるのだから、この半兵衛の秀吉好きはいっそ病的ともいえる。
これでノーマルで、彼女がいたことがあるというのが信じられない。
こんだけホモホモしいのに。
彼女を見たことまであるというのに、それでも信じられないのは
普段の言動が言動だからだな。
失礼極まりないことを考えつつ慶次は
「じゃ、俺フルハウス」
Aのワンペア、Jのスリーカード。
手札を机に広げて言うと、半兵衛と秀吉は渋い表情で手札を投げる。
半兵衛はストレート、秀吉にいたってはブタである。
普通はワンペアぐらい揃うもんだけどなぁ…。
思いながらけれども秀吉は、大抵こういう時にはブタなのだと
慶次は可哀そうなものを見る目で秀吉を見た。
文武両道のこの友人は、賭け事となると鬼のように弱いのが
普段が普段だけに哀れだ。
「…秀吉、お前本当賭け事弱いよな」
「五月蠅い、慶次」
「失礼を言わないでくれないか、慶次君。秀吉は君と違って他が優秀なんだ。
引き換え、他がそうでもない君に言われる筋合いはないよ」
尖った声で言い返す秀吉に、かばう半兵衛。
けれどもそのかばう言葉が、秀吉は賭けごとが弱いと認めているのに
半兵衛が気がついていないのが愉快だ。
半兵衛の言葉に打ちのめされている秀吉と
それに気がつかずにこちらを睨みつけてくる半兵衛の姿を面白がっていると
それにしてもと立ち直った秀吉が口を開く。
うん?と首を傾げると、彼は
「そういえば、お前の方は、新しい義姉とは上手くやれているのか」
「あぁ、デフォルト姉ちゃん。問題無くやってるよ。
どうなるかと思ったけど、あの人外で話しかけられるの嫌みたいだし。
学校でも話しかけてこないから、出来る前とそう変わんない」
「それは良かったことだ。賭け事にはついている君だけれども
実生活では今一、今二ついていないからね。
それが新しく出来た姉弟に適用されなかったのは何よりだろう」
「…半兵衛、お前、どうして俺に対してはそんなに刺があるんだよ…」
会えば話しかけてくるのだから、嫌われては無いはずなのに
どうしてこうも刺々しいのか。
男のツンデレは、俺、遠慮したいんだけど。
思いながらため息をつくと、半兵衛に幸せが逃げるよと注意され
慶次はやりきれない気分で肩を落として首を振るのだった。











「…ってことがあったんだけど」
「あぁ、それは大変といえば良いのか、仲が良いねと言えば良いのか。
…それにしても、蜜柑の話を慶次も聞いてくるとは…」
奇しくもこたつに入り蜜柑を剥きながら言う私に
慶次は俺にそれ食べさせてくれる?と首を傾げた。
ので、私は皮を慶次の方に向けて、折り曲げぶしゅっと汁を飛ばしてやる。
すると慶次は汁が目に入って、身悶え痛がった。
「うぇ、いってっ…!デフォルト姉ちゃん、酷い!酷いだろ、今のは!」
「愚かしいことを言うから…」
「愚かしい…。そこまで言われると、俺もびっくりするんだけど。
デフォルト姉ちゃん、冗談だってわかってるくせに…ひでぇ」
「お黙り下さい。…でも、しかし、あれ。その三成君とやらは
うちの石田に甘え切ってるね」
「あぁ、姉ちゃんの方と一緒のクラスなんだっけ」
慶次の言葉にこっくりと私は頷く。
慶次の友人の友人らしい石田三成君とやらは、私とクラスが一緒の友人の義弟だ。
石田さん家のご姉弟は小学生の時に再婚してそれ以来の仲だというから
うちの家よりかは親密でそりゃ当り前なのだろうけど。
「…それにしたって、食べさせるのは、姉弟じゃないよね」
「だよなぁ」
こたつに入りながら、のんびりと同意する慶次に、だよねぇと言う私。
間違ってもそのようなラヴラヴ姉弟にはなりそうもないなと思いながら
私は「蜜柑取って、姉ちゃん」という慶次の目の前に、かごごと蜜柑を置いてやった。