(義)弟となんでもない日々
こたつに義弟と二人入ってぼんやりとテレビを見ている。
見ているような、見ていないようなといった感じであるので
流れているのは、義弟である慶次とは縁のなさそうなクッキング番組だ。
桃のタルトを作ると言って材料の説明をしている先生と助手を眺めながら
私はふと思い立って
「桃ってさぁ、剥くの難しいよね」
「ごめんデフォルト姉ちゃん、何言ってんの」
そんな不器用じゃないだろ?
と、義弟は首をかしげた。
そうすると、彼の長いポニーテールがさらっと揺れる。
大層腹立たしい。
さらってなんだ。あれか、アイドル気取りか。
男がさらっとかいう効果音を使わないでほしいという、若干差別めいた考えを抱きながら
私はいやいやと言葉を続ける。
「確かにね、普通に剥くんなら難しかないんだけど」
桃と包丁を持つ仕草のまま、私はエア桃にエア包丁で
縦に切り込みを入れた。
「桃って、剥くときに種の周りに身が残るじゃない。
それをしないために、アボガドみたいに
ぱっくり割ってあける剥き方があるのよ」
「へえー。で、それが出来ないんだ、デフォルト姉ちゃん」
「そう。できない。潰しちゃうのよ、なぜか」
「ふぅん。どうやんの、それ」
「ん?あぁ。こう、桃の筋に沿って包丁を入れて」
「ふんふん」
「一周まわしてぶしゅっとひねる」
「…その『ぶしゅっ』がどう考えても駄目だろ」
呆れたように入れられる突込み。
比喩表現だよ、と返しながら私はこたつの中の慶次の足を軽く蹴った。
…さて、予想に難くないだろうが。
次の日帰ってみるとリビングのこたつの上にはきれいに剥かれた桃。
ついでにその桃を楊枝で刺して食べている慶次。
「………」
「あ、お帰り」
大方予想通りだったが、その分腹も立つので無言で睥睨する。
しかしそれにもめげず。否、気付かず慶次は
「あの剥き方言うとおり、きれいに剥けるな。見なよ、この種!
でもあれ、簡単だったよ、姉ちゃ」
「そんなだからデリカシーがないって言われる!」
言いかけた慶次の手の甲を、私は楊枝で突き刺した。
…こういう展開になるのは読めていたけれども。
なにすんだよ!と、珍しくも私に向かって声を荒げている慶次に
ため息をつきながら私は、だからお前はもてないのだと小声でつぶやいた。