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もしも二月十四日までに、幸村と姉が恋人同士になっていたならばパラレル




居間にはチョコレートの良い香りが充満していた。
それもそのはずで、食卓の上にはガトーショコラ・チョコアイス
チョコタルトにチョコシフォン。
チョコチョコチョコ尽くしの甘いお菓子が、目一杯に乗っているのだから。
「はい、じゃあ幸村さん召し上がれ?」
「おぉぉおおおおお…!某これを食べても良いでござるか、殿」
「えぇ。今日はバレンタインですから、チョコを山のように食べないと」
「実に良い日でござる、バレンタイン!!」
「はい、そうですね」
……………恋人同士になっても、チョコレートを食べる日だと言い張る辺り
この姉のバレンタインに対する認識は本物である。
ちなみに他四人は、このあまーい香りを嫌がって、現在家を脱出中だ。
家に二人きり。
しかし姉は気にせず、幸村は気が付いてもいない。
「それでは、早速!」
手を合わせてフォークを幸村が手に取った。
もフォークを手に取る。
どれもこれも、既に半分に切り分け済みだ。
まずはガトーショコラを皿にとって、は一口ぱくり。
幸村はチョコタルトを皿にとって、ぱくり。
………。
「幸せ」
「言葉の通り、実に幸せそうに食べられる」
「幸村さんこそ、ね?」
幸せそうな顔をした幸村に言うと、彼はにこっと笑う。
その口の端に、タルト屑がついてるのを見つけて、はあらと自分の口元を指差す。
「幸村さん、ここに、口の端に屑がついていますよ」
「…ん?どこでござるか?」
「ここ」
「ん」
ごしごしと、一生懸命に反対側を幸村がこする。
反対ですよ、と声をかけようとして、は自分がとったほうが早いと
幸村の口元に手を伸ばした。
唇の端についていたタルト屑を落とすと、それについていたチョコソースが指につく。
黒く染まった指を、幸村の顔から離そうとした所で、ちろり。
「ひゃん!?」
幸村の赤い舌がの指先を舐めて、はびくりと身体を震わせた。
一気に顔に血液が集まって、赤くなるのを自覚する。
「ゆ、ゆ、ゆき、ゆきむ」
「うまい」
「は?」
「一口食べて思ったが、このチョコソース、実に美味でござる。
ひょっとして有名店の菓子でござろうか?」
「え、あ、う、そ、そうです。結構評判のところで…」
「で、あろうと思った。このような美味の菓子を作る店が
埋もれているわけがなかろうからな」
そういった幸村の笑顔に、効果音をつけるならニコ!とかニパ!だった。
邪気一つもない笑みに、笑いながら動揺するだったが
そんな彼女に追い討ちをかけるように、凄まじい速さでタルトと完食した幸村が
シフォンケーキを皿に取り
「ところで殿」
「は、はい、なんでしょう幸村さん」
「これは、本命という奴で相違なかろうか」
…………教えてないのに。
どこから情報を仕入れてきたのだろうかと、思ってからテレビだな、と自己解決をする。
…テレビ、叩き壊したい。
珍しく凶暴なことを思って、は幸村の顔を嫌々見た。
彼はニコニコと機嫌良さそうに笑っている。
…破廉恥って、叫べば良いのに。
の裸を見て逃げ回っていたくせに、どうしてこんなにいきなり強くなってしまうのだろう。
思春期って、分からない。
それどころじゃなくて、反抗期もなにもなかったは、視線を彷徨わせて、俯く。
すると、自分の赤く染まった指先が目に入った。
「…………殿」
すぐ傍に、幸村が近づいてきた気配がして、耳元で声が囁かれる。
それに指先がぴくんっと跳ねた。
「言っては、下さらぬのか?」
「……幸村さん、ずるくは、ないですか…」
「なにがでござろう」
「この間まで、破廉恥破廉恥言って、女が苦手だったくせに」
殿以外は今も苦手だが」
言葉を切って、幸村が手を伸ばす。
そなたには近づきたくて堪らぬと、言われては思わず「破廉恥!!」と叫んだ。
初心こい小娘のような反応に、は自分の年を考えて涙目になり
幸村は呆気にとられた後、の反応に幸せそうに、口づけを一つ落とした。