現代から近似の戦国時代へと、来訪者たちが帰ってから
姉妹がどうしていたかと言えば、ホテルを転々としていた。
祠が完成するまでは、家に帰るのは避けたかったし
かといって一か所にいると、化け物の来襲を受けそうな気がしたからだ。
それを二月程繰り返し、そろそろホテル暮らしに飽き飽きしたころだった。
姉妹のもとに、祠が完成したという知らせが届いたのは。




前に計画した通りに、何かの縁と言うことで全面的に金銭負担をしたの姉妹は
必然的に、祠の完成を祝う式に招かれていた。
まぁ、付き合いであるからと、完成した祠も見たかったはそれに参列し。
そして、その式の最中。
読経をあげる竜伏寺の住職だという人物を見て、は愕然としていた。
誰だ、あれは。
が会った竜伏寺の住職は、いかにも好々爺然とした、丸っこい老年の男であった。
しかし、今読経を上げている住職という老人は、それとは似ても似つかない枯れ木のようではないか!
家の近くに立ち寄りたくなかったは、金銭援助の申し出も
何もかもを電話で済ませた。
しかも、その電話の相手は、常に町内会長だった。
直接ではなく、町内会を通していったのは、田舎特有の面倒な人間関係のせいだ。
だから、会長を通して交渉を行ったは住職の声も、聞いていない。
だから、知らなかった。
住職の、顔も、声も。
あれは、誰?
祠が完成したと聞いた時の喜びも何もかもが
崩れ落ちていく気持ちでがいるうちに、読経が終わって式が終わる。
ざわざわと町内会の役職付きの人間が、仕出しがどうこうと話しをしている中
あきらかに様子のおかしいを心配して、の袖を引いたが
彼女へと、おかしい理由を説明する前に
件の住職がまっすぐに、へと近寄ってくる。
「あなたがさんで?」
「はい。遅くなりましたが、この度は、祠が壊れるという災難
心よりお見舞い申し上げます」
「いえいえ、こちらこそ。あなたのおかげで祠が建て直せまして
御礼申し上げます」
大人らしく、頭を下げて、それからはどうやって何を切り出そうか、迷う。
あなたが、本当に住職なのですか。
私が見た人は誰ですか。
あの人は、誰ですか。
言っていたことは本当ですか?
言いたいことは山ほどあれど、どれもこれも口に出すわけにはいかないことばかりで
まずは無難なことを口に出す。
「それにしても、読経。長くやってらっしゃるからか、外なのにお声が良く通って」
「はい、もう二十三年になりますから」
「まぁ、二十三年。ちょうど、私の歳と同じですね」
そこで言葉を一旦切って
「…前のご住職は確か、好々爺然とした方だった、と母から聞いたことがありますが」
「えぇ、良く知ってらっしゃる」
が一か八かで言うと、住職が深く頷く。
それに、はくらりとした。
あれは、前の住職か。
好々爺然、で決めつけるのは早計かもしれないが、それでもおそらく、そうなのだ。
逢魔が時は、生きるものと死んだものが曖昧になる時間。
その時に会った住職が、死人だからと言って
化け物と三度も四度も対峙したは驚きはしないけれど。
けれど、なぜ、出てきたのか。
疑問に思うだが、住職は祠の隣に立つ町内会長に呼ばれて
軽く頭を下げてまた、と言い残して立ち去った。
後に残されたのは、の二人だけ。
「…お姉ちゃん、どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
疑問を胸に秘めたまま、は首を振った。
推測はいくらでもできるけれど、それは今必要ではない。
必要なのは、化け物が封印されること。
祠のほうへ視線を向けると、住職と町内会長が二人して
祠の前に立って話をしていた。
それをじっと見ていると、もまた、祠のほうを見る。
「………完成したね」
「うん」
「閉じるんだね、やっと」
「…うん、長かったね。冬が、もう終わってしまったもの」
「うん。…あの人たち、ひと冬も居なかったね」
もうすぐ、桜が咲く。
冬の終わりまで居ることのなかった人たちを思い出して
まだ、思い出にはならない気持ちを抱えたまま
祠を見ていると、住職がふところからなにか紙を取り出した。
そしてさらさらと袂から取り出した筆ペンで何かを走り書いて―
その光景を注視していた、と、は知らない。
住職の書いていたのは祠に貼られていた封印の札で
祠は真実完成したわけでなかったこと。
そして気がつかない。
足元に、混沌色をした穴が、つぷんっと開いて。
ぬるりと、広がって、閉じる。
そうして、閉じた後にはも、も。
世界に存在しなくなったのだった。











「怪奇!美人姉妹の突然の失踪!謎の神隠し!」
コンビニに並べられた週刊誌の見出しを笑って、高校生たちが去りゆく。
その後から来た中年の男が、その週刊誌を手に取ったが
見出しの記事を飛ばして、アイドルのセンセーショナルな
スキャンダルのページを広げた。