日・月・火と飛ばして水曜日。
進展の無いまま四十九日を迎えた。
既に四人は街へ送り済みだ。
あとは、今日、四十九日が終わるまで、化け物が出ないことを祈るばかり。
喪服に着替えたが、下に降りてきて、の横に並ぶ。
「…………で、あの四人は兄弟設定なんだっけ?」
「そう。片倉小十郎、佐助、政宗、幸村で通すから。
口あわせよろしくね、」
「はいはい。火事で焼きだされた。火事で焼きだされた。在宅で仕事してる………」
ぶつぶつと設定を呟く様は正直どうかと思うが、ぼろを出さないために一生懸命なのだ。
頑張ってねと、はの頭を軽く叩く。
それにが頑張る、と神妙に頷くと、ピンポーンっと、チャイムが鳴った。
「はい」
「ちょーっと早かったかしらねぇ」
「いえ、とんでもないです」
玄関を開けて、にこやかな手伝いの女性二人を家に招きいれる。
さて、嘘つき遊びの始まりだ。
一戦目のゴングがなったのは、経上げが終わったあとの昼食の準備をしている時だった。
二階の片づけをに頼み、
政宗から借りた簡易台所のある一階の洋室へ、手伝いのおば様方を案内し
と手伝いのおば様二人の計三人で
作業をしていると、ふいにおば様のうちの一人が顔を上げて、おもむろに口を開く。
「そういえば、近頃彼氏が出来たの、ちゃん」
「え、彼氏ですか?」
来た。
四十九日にやることは、お坊さんを呼んで経を唱えること。
来た人々に、昼食を振舞うこと。
以上の二点。
ぼろが出ないよう注意するのも、また二つ。
一つは昼食を振舞うとき。
田舎で家が少ないせいか、地域の人たちが大体参加するので
大所帯になる昼食時は、なごやかに、しかし好奇心旺盛に詮索が始まる時間、要注意。
そしてもう一つは、振舞う昼食を作るのを手伝いに来る、近所のおば様方と昼食を作るとき。
つまり、まさに今。
人数が少ない分、どうにも逃れるタイミングの少ない攻防戦を行うのに、
腹芸の出来ないは不向きだ。
どうにもぼろが出そうなを、適当な名目で、余所へやっておいて良かった…。
自分の決断を内心褒めつつも、はあぁと、さも今気がついたような顔をして
おば様方を見る。
「片倉さんたちのことですね」
「そうそう、イケメンよねー」
「でも四人いるでしょ?彼氏ってこと無いと思うのよね」
「あらー、でも若いから」
「あぁ、そうねぇ若いから」
うふふと笑うおば様方。
彼女達の脳内では一体どういう事になっているのだろう。
多分、爛れた関係なのだろうけど。
………もういっそ、このままにしておこうかと思わなくはなかったが、
せっかく考えたのだからと気を取り直し、
「いえ、そういう関係ではなくて。元々私と佐助、あのオレンジ頭の人と
仕事上でもプライベートでもお付き合いがあって。
仲良くさせていただいてたんですけど、
彼、家が火事になって全焼しちゃったんですよ」
「あらー………」
痛ましいわねぇというような顔をするおば様二人。
…根が、悪いわけではないのだけれど。
総じて好奇心旺盛で、それを満たすことに割りと躊躇いが無いのは
どうしてかしらと疑問を感じつつも、
更には淀みなく口を動かす。
「で、そのときに丁度電話かけちゃって、
通帳もなにも全部燃えちゃったって言われちゃって。
…そんなこと言われたら、やっぱり同情するじゃないですか。
思わず、あの、じゃあ家来る?って言っちゃったんですよ。
えぇ、思わず」
「ふんふん、それで?」
「……えぇ、それは良いんですけど。
彼、兄弟と四人住まいだったんですよ。
で、あなた一人ならいいけど、他の人はちょっとって言いにくいじゃないですか」
「………まぁ、ねぇ。でも言わなきゃ駄目よー。女の子の二人暮しじゃない」
「まぁ、でも一階と二階で別れてるし、部屋に鍵がかかるし。
一ヶ月か二ヶ月ぐらいで、っていう話だったんで」
すらすらとよくもまぁ、口からでまかせが。
普段使ってもいない、蜘蛛の巣が張ってもおかしくないくらい
動かしてもないのに。
自分で自分に呆れかえるが、動かないよりかは動いた方が良かろう。
おにぎりを握りながら、手伝いのおば様二人に嘘八百を並べ立てると
好奇心旺盛なだけで人の良いおば様方は、まぁと二人して呟く。
「でも気をつけないとー。好きな人以外には隙を見せたらだめよぉ?」
「えぇ、気をつけます」
「ほんとよぉ。隙を見せて食いつく男にろくなのいないんだから」
「あらぁ、経験談?」
「旦那よぉ」
「あはははは」
どっと笑いが目の前で起きる。
…何が面白かったのだろうか…。
根本的に良く分からないので、理解を諦めてただおにぎりを握り続ける。
これが二時三時ごろまで続くのかと思うと気が重たかったが
逆を言えば、これが終われば、もう言い訳を並べ立てなくても良いわけだ。
握りあがったおにぎりに、海苔を巻く。
しかし。
ちらりと、は目の前に立つ手伝いのおば様方を見る。
ふくよかな方は竹内さん。
斜め前の家の方。
細い方は、杉本さん。
竹内さんの右隣の方。
………この二人、これだけかしましい癖して、この地域ではまだ大人しい方なのだ。
一体、昼食時にはどういうことになるのだろうか…。
出来るだけ忙しない振りをしていようと、固く決心を固め
はため息を押し殺した。
にも、よく言っておかなくては。