事故現場は、自宅から車で二十分ほど走ったところにある。
左は崖・右は山という、山道でたちの両親は死んだ。
崖下に転落し、その衝撃でぐちゃぐちゃになって
顔も判別できなかった両親の最後の姿、遺体を思い出しては眉間に皺をよせた。
すれ違うのがやっとの道幅だ。
少し手前にある駐車帯に車を停めて、そこから先は歩くことになる。
「……はみ出して、ませんよね?」
二台並んで駐車した後、出てくる武将達に向かって問いかける。
武器は一応持ってきている。
袋に入れたりは、一応しているがとしては気が気でない。
が、持っていなくて一昨日のあれだ。
持たさないわけにも行かない。
だがしかし、だけどもしかし。
一応現代人である的には、非常に胃が痛い。
が、佐助にぽんっと肩を叩かれて
「大丈夫大丈夫。怪しいって思う奴はさ、どっかおどおどしてるから怪しいんだよ。
だから堂々としてりゃばれないって」
「そ、そうですか?」
「そうそう。忍びで観察眼に長けた俺様が言うんだから、そこは信じないと」
ぽんぽんと、二度肩を叩たかれ励まされ、はそうですね、と頷いた。
仕方が無い、なせばなるの精神だ。
線香とライターを持って降りてきたとアイコンタクトを取りながら
は先導を始めた。



暫く歩いたところで、珍しくも道に人影があった。
この辺りはろくに車も通らないというのに。
思いながら、人影を注視してははっとする。
あれは。
人影も、こちらに気が付いたのかこちらに視線を向けてはっとした表情を浮かべた。
「………こんにちわ…」
「えぇ、こんにちわ」
人影は、暗い表情を浮かべた女だった。
横を通り過ぎながら、は崖下に目をやる。
さらさらと流れる渓流と、石と、植物。
それだけしかない。
そう、それだけしか。
女から離れたところで政宗が「知り合いか?」と問うた。
それには「直接的には」と首を横に振る。
ただ、名前は知っていて、顔も知っている。なぜならば。
「警察署で、なんどかすれ違った事があるんですよね………
彼女、撥ねられた女子中学生のお母さんです」
の両親達より先に起こった、その事故の現場があそこだ。
振り返る四人。俯く
あの母親は線香も、花も持っていなかった。
…見つかってないから、か。
生存を信じたいのだと、は直感して、それからなんともいえない感情で
もう一度後ろを振り返った。


もう五分ほど歩くと、両親の事故現場だ。
未だにひしゃげたガードレールが、事故の生々しさを残している。
まず始めに線香をあげて手を合わせる。
黙祷をしたところで、が胸の高さに手を持ち上げた。
「じゃ、道路と下。どっちに行くかはじゃんけんね」
「人の組み合わせは?」
「決めなくてもいいでしょ」
さらりと言うに、は苦笑するしかない。
はいはい、あなたの言う通りです。
もう担当が決まってしまっているお世話対象達を、ちらりと見ては手を前に出した。
「じゃあ、勝ったら下、負けたら道路。最初はグー、じゃんけん」
「ぽいっ」
………………結果は、がパーで、がチョキ。
更に五分ほど歩いた先にある階段から下に降りて、たちは、渓流傍を歩く。
「すいませんね、勝ってしまって」
「いや、別にいいけどね。舗装された道なんて、あっちにはないし。
こういう道も通りなれてるよ」
殿のほうこそ、足元がおぼつかないようだが…」
「いや、うん……大丈夫、ですよ」
確かに石がごろごろとしていて歩きにくいが、まぁ、それほどでもない。
コンクリートで舗装された断崖に手をついて歩いていると、佐助がにんまりと笑う。
「心配ならさ、旦那。手でも繋いで歩いてあげればいいんじゃないの?
それとも俺様と繋ぐ?ちゃん」
「なっ何を破廉恥なことを申しておるか、佐助!」
「え、だって危ないんでしょ?」
にんまりにまにま。
笑いながら言う佐助の様子は、どう見ても心配しているようには見えない。
は一瞬眉間に皺をよせたが、佐助の危ないんでしょ?で得心がいって顔を引きつらせた。
「あ、あなた…根に持ってたんですか、あれ…」
「えーなんのことか、俺様良く分かんないなぁ」
ただ、借りは返しておかないと、とは思ったけどねという彼の表情は
随分と気安く、それ故には彼への反応に困る。
からかってくれるほど、心を許してくれたのか
それとも手を繋いだのが、そんなに嫌だったのか。
答えは出ない。
ので、は「結構です…」と首を振った。
「あんまり子供みたいなことしないで下さいな、佐助さん」
「………そう返してくるわけか…ちゃんにやり返すのって、本当難しい…」
「悩まなくて結構ですよ、そんなろくでもない」
ため息をつく。
こういう発言が出てくるのは、彼の性格ゆえか、それとも少しはこちらに気を許しているからか。
後者ならば嬉しいのだけれどと思いながら、は歩き続ける。
先導しながら、更に二分。
さて、そろそろ両親が落ちた辺りに着くはずだが?
上の景色を見て、判断をして注意深く進む。
「………この辺り、ですね」
僅かに血痕が残った石を発見して、それから頭上の景色を見て
は立ち止まった。
幸村と佐助も立ち止まり、景色を見る。
だが、辺りの景色はのどかで、変わった様子など一つも無かった。
「……佐助、変わったところなど何も無い様に
某には思えるが…お前はどうだ」
「俺様にもさっぱり」
佐助が首を振る。
これで対岸が鬱蒼と生い茂っていれば、向こうに何かあるのではと思えるのだが
残念ながら向こうもこちらも対して背の高い草も無く
目を動かせば、辺りがしっかりと見通せる。
「……………とりあえず、何か無いか探してみましょう」
それでも、動かないわけには行かない。
化け物の手がかりの欠片でもと、たちは動き調べた。
穏やかに揺れる草花に、そよぐ風の正常さからみて、何も出てこないような気はしたが。












そして、その予感どおり。
二時間ほど動き回って調べたにもかかわらず、手がかりらしい手がかりも無く。
またそれは組も同様で、特に進展も無いまま、その日は終了したのだった。