十二月某日。
冬の寒い日であった。
暖冬にしては気温の低いその日、午前十一時。
市内在住の佐藤幸一容疑者(五十六歳)は、隣家など五軒に侵入。
金品を奪った後、トラック運転手である容疑者は、トラックにて逃走。
市内を北に向けて逃走し、途中、女子中学生を撥ねるが逃走を継続。
そのすぐ後、一台の乗用車と接触事故を起こしかけ、乗用車は崖下へ転落。
その後、三十分ほど逃走を続けたが、女子中学生を撥ねたときの
血痕や損傷から逮捕となった。
容疑者は、強盗の理由を生活苦からと話しており、女子中学生や乗用車に関しては
事故を起こすつもりは無かったと、語っている。
なお、撥ね飛ばされた際に、崖下に転落したと思われる女子中学生は
已然見つかっておらず、いまだ捜索が続けられている。








………このうちの、事故を起こした乗用車が、たちの両親の乗っていた乗用車である。
事件の概要、蔵前から聞いた情報、その全てを帰宅後話した
大きくため息をついた。
「………昨日というタイミング………時期といい、綺麗に切断されていたというキーワードといい
少し重なりすぎていると、そう思うのですけど。…どうです?」
「……同感だね。俺様もそう思うよ」
寝室で、布団を敷いてからの作戦会議。
夜勤が多目のですら揃っているというのは、ついているということなのか。
それとも巡り合わせか。
「………………三割。そのぐらいの確立で、関連はあるだろうな」
「三割でござるか」
「…あんまりにも情報が断片的過ぎるだろ」
指を三本立てながら言う政宗に、確かにと幸村が頷く。
膝の上に肘をつき、小難しげな顔をした幸村は、しかし、と続け
「しかし、ただ待っているだけでは、攻勢に打って出れないのもまた、事実でござる」
「防衛戦は好きじゃねぇって?」
「そういう物言いをするって事は、独眼竜の旦那は好きってこと?初耳だな」
「うるせぇ、黙れ猿。好きでもなんでもねぇよ」
「話をそらすな、猿飛。政宗様も」
幸村をからかう政宗に、それを茶化す佐助。
窘める小十郎は胃が痛そうだが………としては、これぐらいで丁度いい。
あんまりシリアスな空気ばかり出されても、空回りそうで怖い。
大体が、確証など何一つない、ただの勘。
妄想に等しい情報で動くのだ。
あんまり、期待をされても困る。
………このまま、動きが無いばかりよりはましなのだろうけど。
彼らがやってきてから一月。
何一つ動きがなかったこの一ヶ月。
それよりかは、何事かあったほうが気が楽だろう。
彼らも、そして自分達も。
「…は明日休みだったね」
「うん。二台に分かれていく?」
「一台じゃ、とてもいけないと思うよ」
事故現場までは、歩いていける距離じゃない。
六人いる面子を見る。
四人、車の後部座席に乗せてしまうと、ぎゅうぎゅうになるのは間違いない。
なにせ、車はごく普通の乗用車なのだ。
戦国武将が押しくら饅頭のように、肩身狭く乗っているのも、それはそれで面白いかもしれないけど。
笑いを密かに噛み殺していると、同じ光景を想像したのか、がぶふっと吹く。
「おい、ろくでもない想像をするな」
その瞬間、首根っこを引っつかまれて、が小十郎に怒られた。
は理不尽だと思ったのか、おそらく援護を期待してをチラッと見たが
がなんとも無い顔をしているのに諦めて、ごめんなさいと謝る。
その光景自体は、いつものことなのだが、ちらちらと、のぞく雰囲気の違いに
は遠い目をしてため息をついた。
そうか、そういう風に転がるわけか。
転がると、決まったわけではないが、こういう時のの勘はよく当たる。
ほどじゃないけど、と横髪を指に巻きつけ、それからはそれを放した。
「じゃあ、とりあえず、明日は事故現場の探索に九時出発、ということで。よろしくお願いします」
「Okey」
政宗が頷き、他も同意を示す。

―それでその日はお開きとなった。
まぁ、長々と話をしようにも、その材料が今のところないわけで。
その材料を、明日探しに行くわけで。
ようするに会議しようもない手詰まり状態なわけで。
だからこそ、こんな不確定極まりない情報で動くわけだが。
ともかくとして。
化け物が現れた昨日の今日の話しである。
男性陣は、警戒のために交代制で床に就くという。
も、それに加わろうかと申し出たが体力と抵抗手段の差から
にべもなく申し出は蹴られた。
…当たり前の話だが。
せめてもと、電気をつけたままでいいと、家主権限で許可を出しては布団にもぐりこむ。
先番は、幸村と政宗の二人。
何事か打ち合わせを顔を近づけてしている二人。
その向こうには、佐助と小十郎の頭が見える。
反対側には、の寝姿。
上手くなにか有力情報を掴んで。
帰る手段さえ見つかれば、そのうちこの光景も終わり、ね。
思って、はもう一度並んだ布団を見た。
合計六つの布団の敷かれた部屋。
一月、三十日。
繰り返し繰り返し、一緒に寝て、一緒にご飯を食べてきた人達。
話をして、笑ったりして、それなりに上手くやってきた人達。
…奇妙な縁を結んだ武将達との別れを想像すると、寂しさが無いわけではないが。
あるべきものはあるべきところへ。
彼らも帰るべき場所へ、帰るべきだ。
なんとなく寝返りを打つと、打ち合わせの終わったらしい幸村と目が合った。
「………昨日も寝ていませんが、大丈夫ですか?」
「慣れております。大丈夫でござる」
「そうですか。寒いですから、もう一枚ぐらい羽織るといいですよ」
なんとなく、肌寒そうな格好をした
(佐助や政宗達はそれなりに着ているが、幸村は何故か薄着なことが多い)
幸村に言うと、彼は分かり申した。と真面目に頷く。
「駄目ですよ、風邪引いたら」
「はい」
保険証がなくても、医者には連れて行く気でいるけれども。
出来れば引かない方がいい。
この時代の風邪を彼らが引いて、無事である保証もないわけだし。
「ほんとに、もう一枚着てくださいね、まだ、寒いんですから」
「分かり申した。……殿こそ、寝てくだされ。某たちが見張っております。
何も危ないことなど起こさせはしません」
「えぇ、それは、心配していませんけど」
答えると、途端に寝ていないせいか、とろりとした眠気が頭を満たす。
うとうととする頭で、おやすみなさいと彼に向かって呟くと
良く眠られよと返される。
この時代がかった物言いが、実に幸村さんらしい。
思いながらは夢の世界へと吸い込まれていった。