愚かだ。
官兵衛は愚かだ。
心の動きに鈍ければ、いくら頭が良くてもどうしようもない。
いや、彼は他者の心の動きには聡い。
であるのならば、自分のことは分からないということか。
座位で抱かれながら、義子は声を殺しつつ考える。
氏真が来て以来、官兵衛の抱き方が変わった。
僅かばかり前戯をするようになり、義子の表情を見ては
少し眉間にしわを寄せる。
なにが、気にいらないというのか。
自分の心の動きすら分かっていないだろうお前に、そういう顔をされるいわれはないと
義子は思ったが、彼女の方も以前とはこの行為に関して少し捉え方が変わってきている。
あっさりと言えば、以前よりも楽な気持ちになった。
どうでも良く許していたとはいえ、やはり乱暴に物のように抱かれていると
体が痛くて憂鬱ではあったのだ。
それが無くなったことと、後は目の前のこれが余りに愚かだという認識を
持てて、どうしようもないと思えたせいか
彼女は前よりかは、この行為に関して前向きになっていた。
いや、なってどうするという話でもあるのだけれど。
けれど、それも悪いことではない。
どうでも良く受け入れていただけの行為に
義子は官兵衛とのふれあいを追加した。
まぁ、逃げない、一緒に居るという意思表示である。
漫然と受け入れているから、官兵衛が不安になるのだ。
だから、今日も今日とて精を体の外に吐き出した男の
白と黒に分かれた髪を手にとって、さらさらと弄んでいると
官兵衛が奇妙な顔をして義子を見た。
「何をしている」
「いえ、特に」
「…………卿は訳が分からんな」
嫌そうに身をよじり、官兵衛が義子の手から
自分の髪の毛を引き離す。
その行動が面白くて、義子はくっと笑い声を洩らした。