季節は巡る。
春と、夏と、秋と、冬。

その中で、静かに変わっていくもの、変わらないもの。
けれど、劇的に変わる瞬間もたまには存在するもので。

「ご懐妊ですな」
「え」
「おめでとうございます」
ごほんと老医師が咳払いをしたのに、久子は目を瞬かせた後、腹に手を当てた。
…子供、自分の。
……………うわぁ…。



夫婦生活を営んで、子供が生まれる。
それは喜ばしいことでもあるのだけれども、妊婦は不安も抱えるものです。

「お姉ちゃん、私、ちゃんと子供育てられると思う?」
ほぼ同時期に懐妊が発覚した妹に相談を受けて、久子は途端に自分も不安になった。
愛されて育ってない自分が、子供を愛するということができるのだろうか。
腹に手を当てて考える。
それは、懐妊の知らせを受けてからずっと心の底にあった不安で
妹もそうだけれども、自分も、きちんと育てられるか、という問いかけに対しては
あまり自信を持って頷ける気が、しない。
けれども。
「大丈夫、籐子ちゃんなら。あなた優しいでしょう?」
「そんなこと」
「小十郎さんも、政宗さんもいるでしょう。他の人も。
一人で育てるわけじゃないし、世話役の人もついててくれるから。
きちんと向き合って、きちんと話をして、きちんと見ていれば、大丈夫」
きっぱりと言いきるのは、妹に不安を与えない為と、自分の迷いを振り切るため。
大丈夫だと、自分に言い聞かせながら、久子は夫を思う。
あの人と一緒に育てるのなら、大丈夫だと。




「え、本気で俺様に預ける気なわけ、ねえ」
「何を言う。前々から言っておったではないか、佐助」
「今更ですよ、ねぇ?」
微笑みを交わしながら、固まる佐助を無視する夫婦。
夫はずっと前から予告をしてあって、その妻が久子だというのに
何を言うのでしょうか今更この忍びったら。
そういう感じで、子供がある程度育った後は忍びである佐助を世話役とするという通達が
いともたやすく雇い主たちによってかるーく行われたのであった。




「ここにBabyが入ってんのか」
こわごわという様子で触る政宗の手を、籐子はふと思い出して
ぐっと自分の腹へと押し付ける。
「…おい」
「いや、なんか前にそこの目の所に手を持って行かれたなぁと思って」
「いつのこと言ってんだ」
「だいぶ前。ねぇ、小十郎さん」
「俺に振るな、籐子。…赤子の成長は早いもので、もう腹を蹴るとのことです、政宗さま」
「そうか」
自分の子でもないのに嬉しげにする政宗。
その表情を見て籐子と小十郎は目を合わせると、政宗に腹に耳を押し付けることを勧めた。
そうして腹の子が蹴ったのを聞いた政宗が、パッと顔を輝かすのに
なんか、腹の中の子供が出てきたら足しげく通ってきそうだなぁこいつと
籐子が思ったのは、致し方ないことだろうて。




そのように、静かな積み重ねから大きな動きが生まれる十月十日。
幸せとは、積み上げ式に作ってゆくものです。




―十月十日―