なぁ、知ってるか。
この間の警備中に。
警護してた奴が知り合いの知り合いから聞いたって話なんだけど。
始まりは、本当に他愛もないことだった。
警備に飽きた兵士が、百物語を始めると言う、本当に、他愛も無い。
けれど彼らにとって不運だったのが、その部屋が元々遠呂智が使っていた部屋だということ。
知ってるか。知り合いの知り合いから聞いた話なんだけど。
知ってる?友達の友達から聞いた話なんだけど。
非日常から日常に回帰していく中、面白半分に人に伝播していく怪談話。
怪談が流行っていると、支配者達の耳にその流行が入り始めた頃、異変は起こり始める。
「おねえちゃん、トイレついてきて」
「………籐子ちゃん?」
「いや、怖い話聞いて一人じゃトイレ行けない」
「あー…うん…」
帰り行く穏やかな日常の気配。
妹の些細なお願いにそれを感じながら彼女はこころよくそれを了承した。
「上田の人、良くしてくれてるの、お姉ちゃん」
「会うたび会うたびそれを言ってる気がするんだけど」
「だって心配だなって。いつでも奥州に来てくれていいんだよ?」
「行かないです」
笑みを含みながら妹に返す。
彼女が半分ぐらい本気なことを知っているから、冗談でもそうしようかなとは言わない。
不自由は勿論あるが、好いてくれる夫とその兄代りのような人を切って
彼女の所には、行かれない。
妹だとて、そうだろう。
彼女も彼女の恋人と、恋人の上司を切ってまで、こちらには来れない。
それを寂しくは思うが、世界が広がるというのは、多分そういうことなのだ。
現代の頃は、二人、閉じた世界に居たからと思いながら久子が歩いていると
厠が見えてくる。
手前で止まって、じゃあ行ってらっしゃいと久子が声をかけようとしたその瞬間。
ぎぃっと、厠の扉が開いて、ごとりと、重たい音が、した。
「き、きゃあああああああ!!!」
ごとりと音を立て、地面に落ちたのは赤々しい生首。
そして目に入るのは、一面が赤く染まった厠の中。
これが、異変の始まり。
知ってる?友達の友達から聞いた話なんだけど。
出るんだって。厠に、血を抜くお化けが。
赤が良いか、白が良いかって聞かれるけど。どっちも選んじゃ駄目なのよ。
赤を選ぶと、厠が血まみれになるまで切り刻まれて
白なら全身真っ白になるまで血を抜かれるの。
だから、答えたら駄目なんだからね。
え、本当の話だよ。だって、友達の友達の友達は、答えちゃって―――――
流れる七つの噂。
噂の通り、古志城で起こる七つの怪異。
そうして、その渦中へと姉妹は引きずりこまれていくことと、なる。
「籐子ちゃん、しっかりして、籐子ちゃん!!」
「おねえ、ちゃ、ん…後ろ…」
「………え?」
「久子殿、避けて下され!」
切羽詰まった幸村の声、けれど、間にあわない。
「あ」
久子の開いた口から出たのは、そのような短い何の意味も持たぬ声だけであった。
そうして、彼女が視界に捉えたものは。
―七つ夜怪奇談―