10・赦し
フロドはあっという間に起こった出来事にふらふらする頭を抱えて立ち上がりました。そして今ゴラムが落ちていった裂け目を見て、ただ一人立ち尽くしていました。歩き出そうとしたフロドの目には、涙が浮かんでいました。もう、フロドの足には前に進む力が残っていませんでした。いいえ、残っていたのかもしれません。しかしフロドには、今何かの救いや赦しなしには前に進むということができませんでした。 許しを請うて倒れたフロドの耳に、心地よい音が響きました。それは一体どれくらい前に聞いた声だったでしょう。もうそれすらもフロドには分かりませんでした。それは、森の奥方ガラドリエルの声でした。 あれは一体何だったのでしょうか。ホビットにはエルフの叡智は分かりませんでした。しかし、フロドの中には今までなかった力が湧き出ていました。フロドは全ての過去を赦され、そして前に進もうとしていました。そして目の前には、キリス・ウンゴルが見えてきました。フロドは何かに引かれるように、そのおぞましい建物にひたすら前を向いて近づいていきました。後ろから、シェロブが彼に音もなく忍び寄っているのに気がつかず。 シェロブはフロドの背後の岩、ほぼ真上から機会をうかがっていました。武器もなく、走る力も気力もない、しかしそれでも腹を満たしてくれる臭いをさせた獲物がすぐそこにいるのです。逃す手はありません。シェロブが思わず獲物を喰う場面を目に浮かべ、隙を見せた一瞬後でした。カラン、と荒れた地に落ちた石の小さな音を、確かにフロドは聞きとがめました。何かの気配が自分に向けられているのを感じました。しかし振り向いたそこには、何もありません。ただ、殺風景な岩と砂と暗い空しか存在していませんでした。何もなかったと多少の安堵を持ち、正面を向いた瞬間でした。フロドは上から胸を蜘蛛の針に刺され、泡を口の端から滴らせて倒れてしまいました。顔の色はいつもの真っ白い肌から血の気を失った青白いものとなり、目は恐怖と瞬間的な毒に侵されて見開いていました。シェロブのたくらみはゴラムを抜いて成功し、彼女はまんまと獲物を手に入れ、糸で巻き始めました。空腹を満たすその存在に満足しながら。 「遅すぎた救出」に続く。 |