25・別れと帰郷と
祝賀の日々は穏やかに過ぎ去り、フロドは今やもう、故郷に帰ることを願い、そしてそれだけが唯一の願いとなっていました。裂け谷にまだいるビルボのことも、フロドの気持ちを逸らせる一つの原因でした。アラゴルンにいとまを告げ、ここに残る全てのものに惜しまれながら、ホビットたちは帰途につきました。アラゴルンは別れを惜しみ、アルウェンと共にその旅路を祈りました。 こうして、中つ国の第四期がはじまりました。指輪の仲間はひとりが失われ、そして今やもう別の道をそれぞれに歩みだしていましたが、それでも心の中はいつまでもいつまでも愛情と信頼に結ばれていました。 そうしてとうとう、ホビットたちは戻ってきたのでした。あれほどまでに守ろうとした大切なものの元へ。懐かしのホビット庄へ。その緑あふれる景色を見た時のフロドの笑顔に、一瞬だけ影がよぎりました。それは苦しそうで、切なそうで、悲しそうな笑顔でした。 ホビットたちの暮らしはフロドが出て行ってからもまったく変わっていないように見えました。平穏で退屈でそれでもかけがえのない大切な日々を、ホビットたちは飽きることなく享受していました。そしてそれに満足し、与えられたものを抱いて生きていました。しかしフロドやサムに対する態度は少しだけ変わりました。今までもフロドは変わり者のバギンズの一人と思われてきましたが、さらにみながフロドを見る目はビルボ以上の変人になって帰ってきたとしか映りませんでした。それでも、フロドはただ穏やかに笑ってそれを見ているだけでした。サムがどれほど 落ち着いて何日かたったある日、フロドとサム、それにメリーとピピンは緑龍館に集っていました。周りの喧騒は、以前と全く変わることなく、ビールやらパイプやらを気ままに楽しむホビットたちでひしめいていました。ホビットたちはその心地よい空気を、胸いっぱいに吸い込みました。そしてメリーとピピン、それにサムは満足そうにため息をつきました。誰からともなくビールの器をかちりと合わせ、四人は乾杯をし、そして静かにそれを味わいました。それはずっとずっと忘れていた、少しだけほろ苦くそして濃厚な故郷の味がしました。誰も口を開くものはいませんでした。ただ、幸せそうに微笑を交わし、黙って器を傾け続けていました。そうして静かに、静かに夜は更けてゆきました。 |