1・小さな希望と大きな闇

 

 ここはフロドとサムから遠く離れた場所。ペレンノールを渡るファラミアには、ガンダルフの放つ光が希望に見えました。そしてその光の元には小さな人がいました。ファラミアは驚きました。小さい人はまだここにいたのかと。あの疑わしい生き物と共に行ったのではなかったのかと。ミスランディアと一緒ならば安全だと。だがそれでは世界は終わるのではないかと。そんな考えが押し寄せてファラミアの目を見開かせました。しかしそこにいたのはあの綺麗な小さい人でも、忠実な目をした小さい人でもありませんでした。そこには、見覚えのない小さな人がいました。思わず凝視してしまったファラミアにガンダルフは言います。ファラミア、おぬし小さい人を見るのは初めてではないのか、と。もちろん違います。ファラミアは首を振りました。すると、今までおびえたような顔をしていた小さい人が目を輝かせました。それはそれは嬉しそうな顔でした。
「フロドとサムを見たの?」
ガンダルフも問います。
「どこで、いつじゃ?」
ファラミアは嬉しそうな小さい人と、真剣なガンダルフに自分の知っていることがいかばかりに作用するのか分かりませんでした。しかし、この賢者ガンダルフのあずかり知らぬところで、古い歌にある小さい人と出会った事が何らかの意味を持つことを知っていました。そして、その意味が決して良いと言い切れないということも。いまだ緊迫する空気の中、ファラミアは二人に事実を告げました。
「イシリアンで、二日ばかり前にです。」
その言葉に、目の前の賢者と見知らぬ小さい人は、目を輝かせていました。しかし、賢者のその希望の輝きは次の言葉で、どこか遠くへと追いやられ、そして苦痛の表情が浮かびました。しかし、そこにはまだ小さな希望の光が確かに灯っていました。
「ガンダルフ、かれらはモルグル谷を通っていったのです。」
「そしてキリス・ウンゴルへ行くというのじゃな。」
「はい、間違いなくそうでしょう。」
それを不思議そうに見つめる、小さい人の視線がありました。
「ねえ、どういう意味なの?何か悪いことでもあるの?」
それは、ファラミアが見たあの二人と同じような、純朴で美しい瞳でした。ファラミアは、フロドはかれの言うホビットというものとは少し違う雰囲気を持っていたと思いましたが、この目の前にいる小さい人は、まさにフロドの語るホビットそのものだと感じました。このような小さい人を、フロドは守りたいと願っていたのだと分かりました。そして同時に、ファラミアもかれらを守らねばと思うのでした。いつまでもその小さい人を見つめて目が離せなくなっているファラミアを、ガンダルフは急かしました。
「ファラミア、分かる限りのこと全てをわしに話すのじゃ。そしておぬしが感じることも全てじゃ。」
そしてファラミアは短い間に起こった、自分が知る限り全てのことを話しました。自分がそれに不安や、闇、陰謀、そして今にも消えそうな光を感じることも。そして、かれらが無事であることを願わずにはいられませんでした。そこにガンダルフは何を見つけられるのか、それはファラミアには分かりませんでした。ただ、その小さな希望と大きな闇を、心の目で見つめることしかできませんでした。

「暗がりの出発」に続く。