Sultry Day

 

 これは、ある暑い夏の日のお話です。 

 その日は朝からうだるような暑さでした。あまりの暑さに汗だくで起きたフロドは、まだ陽がようやく昇った早い時間に目覚めてしまったことに気がつきました。
「今日は暑くなりそうだ・・・」
小さく呟いた声さえも熱を伴って部屋にこもっていくようでした。とてもこのまま寝ていられるほどフロドは図太くありません。のろのろと起き上がり、何となく湿って汗臭い寝巻を身体から引き剥がして窓の側に寄りました。まだかろうじてやさしい朝日が顔に当たって額の小さな汗のしずくをきらきらと照らしていました。全身の着ているもの全てを脱いでもまだまだ熱を身体から逃がすには暑すぎて、フロドはいっそこのままで朝食を食べに行こうかという考えが頭をよぎりました。しかしそれはホビット庄で中流以上の身分である自分には許されない行為である事もフロドには分かっていました。ですから昨日サムが用意してくれた夏用の薄く白いシャツといつもより短いズボンを気だるげに身につけました。窓もドアも開けっ放しでフロドは台所までぺったぺったと足音を響かせて歩いていきました。速く歩くと余計に暑くなりそうで、なるべく自分の中に熱を発生させないようにゆっくり歩いて行きました。
 

 台所ではいつもどうり早起きのビルボが、既にパンケーキを焼いて食べていました。さっき火を使ったばかりのフライパンからはまだ熱気が漂っていました。ゆらゆらと揺れて見えるその後の壁が妙に目につきました。
「おや、今日は早いねフロド。」
ビルボは台所に入ってぼーっと突っ立っているフロドが何も言わずにフライパンの向こう側を見ているのでなんだかおかしくなって少し笑いながらそう言いました。それにやっと気が付いたようにフロドはビルボの方を向きました。
「え?ええ。おはようございますビルボ。パンケーキですか。」
「ああ、そうだよ。いや、もう暑くってね。食べでもしなきゃ耐えられない。」
フロドはそんなビルボを少し羨ましそうに見ました。ビルボはなんだか涼しげに見えて仕方ありませんでした。実はそんなことは少しもないのです。むしろ傍目から見れば、ビルボの方が汗を顔に浮かべ、いかにも暑そうに見えました。そしてフロドはちょっとぼんやりしているようにも見えない事もないのですが、白いシャツと白い肌には目立った火照りも何もなく、フロドだけ別の世界にいるように涼しそうに見えました。ようやく冷め始めたフライパンを横目で見ながらフロドはビルボの向かいに座りましたが、せっかくビルボが焼いてくれたパンケーキには手をつけませんでした。
「どうしたんだいフロド?」
もう何枚目になるのか、またパンケーキの山に手を伸ばしたビルボが不思議そうにフロドを見ました。フロドの好きなサワークリームも冷たいミルクも色とりどりのジャムもあります。しかしフロドはそのどれにも目をくれず、ぼんやり机の上に肘をついていました。
「いえ、暑くて。食べる気が起こらないんですよ。」
フロドはやっとのことでそんな風に言葉を口から押し出しました。その様子があまりにだるそうで、ビルボは少し心配になりました。
「おいおい。いくら暑いからって少しくらい食べなきゃいかんよ。」
そう言ってビルボは水の中で冷やしてあった薄い金属でできたカップをフロドの手元に置いて、ミルクを注ぎ入れました。
「さあ、飲むんだよ。」
フロドは渋々と言ったぐあいにカップを取り上げ、そのひんやりした感触を楽しみました。
「ぬるくなってしまうよ。せっかく冷たくしておいたのに。さ、はやくお飲み。」
フロドはそこで初めてビルボにせかされていることに気が付きました。
「どうしたんです?今日はどこかに行くのですか?ビルボ。」
一口だけ飲んだ冷たいミルクが身体の中をすっと冷やしていったので、フロドは少しだけいつもの様子に戻ってそう聞きました。しかしそれも一瞬のことでした。フロドはまた身体を取り巻く暑さの波に囚われてしまいました。ビルボがこう言って、フロドを心配しながらもいそいそと出かけていく様子も、もはや夢うつつの状態で見ていました。
「今日は涼を求めて少し森の中に行こうと思っていたら、ちょうどホビット庄の端の森にエルフたちが来ているのだと道行くドワーフが教えてくれたんだよ。かれらは早起きで、エルフを毛嫌いしているからね。すぐに気が付いたんだろうよ。ホビット庄の中の誰も起きていない時間にこの屋敷の前を通っていったんだ。わたしもかれらと一緒にいたせいか、早起きの癖が直らないよ。まぁきっと良い事なんだろうけどね。いかにもホビットらしくなくてね。サムの仕事もほどほどにさせるんだよ。休ませておやり。この暑さじゃあんまりかわいそうだ。帰りはきっと遅くなるから先に寝ていてもいいよ。ドアは閉めなくていい。どうせ暑いからね。じゃあ行ってくるよ。」
「いってらっしゃいビルボ。」
そうフロドが行った時にはもう、ビルボはお気に入りの杖だけを持って足取りも軽くお屋敷を出て行った後でした。

 どれだけその場でフロドはぼーっとしていたでしょう。ふと気が付くと手の中のカップが体温と同じくらいのぬるさになっていました。中のミルクも同じ温度になっています。とてもこれ以上飲む気になれなくて、フロドは小さな溜息をつきながらカップを机に戻しました。太陽がだんだん高くなってきているのが分かりました。もう日差しは目を刺すような鋭さで肌を焼き、体の中の水分という水分全てが吸い取っていくように感じられました。腕を木でできた机から離してみると、そこにはフロドの腕の形に汗のあとがくっきりと残っていました。
「あー。」
もう座っているのも立っているのも耐えられそうになく、フロドが椅子の背もたれにぐいーと伸びをした時でした。
「おはようございますだ。サムですだ。」
今しがたビルボが出て行った扉からそんな声が聞こえてきました。暑さをものともしない元気ないつものサムの声でした。フロドが返事をするのもおっくうそうにしていると、サムのちょっと肉付きのいい足の音がこちらに近づいてくるのが分かりました。
「今日は暑いですだね。タマゴも茹っちまいますだよ。庭の花たちもかわいそうだ。こんなじゃ水もやれやしねえ。」
そう言ってサムはまったくいつものとおりに持ってきたタマゴを籠に入れ、フロドの後ろにあるまるい窓を開けて庭を見渡しました。サムはだるい様子もなく、むしろ暑いお日さまに微笑みかけていました。
「今日はきっと暑いだろうと思いましてね、さっき早起きして一回水をやったんですだよ。まだお天道様がきつくないうちに。でももう乾いちまってる。すごいですだね。」
そう言ってサムはフロドの方をくるりと振り返ってにっこり笑いました。
「・・・お前、よく平気だねぇ、サムや。」
フロドはそれに応える笑顔を作るのに失敗していかにもだるそうにそう言いました。
「いいえ、平気じゃありませんだよ。もう汗が滝のように出ますだ。」
「でもお前は元気そうだ。羨ましいよ。」
フロドはこの年下の庭師には自分の心のうちをそのまましゃべることができるようでした。そして言葉通りいかにも羨ましそうな、ものほしそうな目でサムの体をじいっと見つめました。サムはそんな主人の視線に気が付いたのか気が付いていないのか、少し笑って言いました。
「おらにはよっぽどフロドの旦那の方が涼しい所にいらっしゃるように思えるだ。まるで汗もかいてねえみたいですだ。真っ白くって、雪みてえで。」
「そう思うかい?」
フロドはちょっと、意味ありげに身体をサムの方へ向け、熱にうかれたような目でサムを見上げました。白いシャツの中からのぞくそれよりもっと白い肌。ほんのり熱を持ったようなうなじから鎖骨にかけて襟がややはだけ、黒い捲き毛は艶やかに光っていました。目はサムに何かを訴えるように、それでいて意図が読み取れない深さを持った色をしていました。短いズボンから見える足はほとんど真っ白な太腿までが見えており、サムは一瞬たじろいだように目をみはりました。
「ねえ、そう思うかい?」
フロドはもう一度そう言いました。
「え・・・ええ。そう思いますだ。」
サムはそう答えながら汗がすうっと背中を伝っていくのが分かりました。不思議な事にそれひとかけらの不快感もなく、ただ感覚となってサムの肌を通り過ぎて行きました。
「フロドの旦那はとても涼しそうに見えますだ。雪みてえで、触ったら融けちまいそうで・・・」
サムはまるでそれをフロドの目が言わせているようだと思わずにはいられませんでした。口を開くと出てくるその言葉はのろのろとサムの思考を奪い取り、無意識のうちに、かあっと顔が火照って行くのが分かりました。フロドはそれをゆっくり舐めるように見ていました。それからまるで暑さにやられてしまったような、少し背筋がすっとするような恐ろしく美しい笑顔でこう言ったのでした。
「お前のからだで、わたしをとかしてごらん?」

 サムは自分の手がかすかに震えていることに気がつきました。フロドの方に引き寄せられる自分の手は、サムの意思を全く反映させませんでした。どれだけ心の中で『何をやろうとしてるだよ、このサムワイズが!』そう思って手を引き戻そうとしても、まるで無駄でした。サムは眩暈がするように感じました。暑さが全部一瞬にしてどこかへ行ってしまったようなそんな気分でした。サムの手がフロドに近づくその何秒かの間、フロドはじっとサムを見ている自分の目が、きっと妖しく光っているのだろうなと思ってしまいました。そしてそんな自分を冷静にしているものは何だろうと思いました。それなのにこのサムから目を離せなくて、身体の中が外とは違う熱さなのは何故だろうと思いました。サムの手が、そっとフロドの頬に触れると、それは一瞬、お互いに不思議な冷たさを伴って感じられました。
「旦那・・・ひんやりつめてえ・・・」
声に出したのはサムでした。それを合図に、二人は台所の床に縺れ合って倒れこみました。背中からほのかに感じられる板の冷たさが心地良く思えました。しかしそれは一瞬のできごとでもありました。先ほど冷たく感じられたはずのフロドの頬はもうはっきり分かるほど火照っていました。そしてフロドにも感じられたサムの指も、どこか燃え滾るような熱を持っていました。フロドはその熱さをいとおしむようにそっとサムの手首を掴みました。そしてそっと自分の唇に触れさせたのでした。
「だ・・・旦那ぁ!?」
サムの声が一瞬ひっくりかえって、妙に甲高い声が部屋に響きました。それでサムはどこか正気に返ったように手を引いてフロドから離れようとしました。
「旦那、あの、その・・・勘弁してやってくだせえ。こんな朝っぱらから、こんなとこで・・・」
サムが今度は暑さでないもので頬を染めてわたわたと慌てました。しかしそれをフロドは許しませんでした。
「だめだよ、サム。わたしはこんなに熱いのに。お前はつめたいって言うのだもの。」
そしてそっとサムの指を口の中に入れて舌で指の付け根から爪の先までをすうっと舐めました。
「ひゃっ!」
その感覚は雷の電撃のようにサムの頭を突き抜けました。もう、これ以上サムには耐えられませんでした。自分の指を持っていたフロドの手を逆に掴み、床に寝転がしたフロドの頭の上に両手を強く束ね挙げました。普通なら、サムがこんな乱暴なしぐさをすればフロドも多少なりともびっくりして声をあげるところです。しかし今日はそんなことをむしろ悦んでいる自分がいることを、フロドは楽しんでいました。そしてうっとりとサムを見上げたのでした。
「さあ、触ってご覧。わたしがどんなに熱いか。」

 サムはフロドのそんな表情があまりに綺麗で、どこか怖くなるような気がしました。背筋を寒くするような美しい笑みでした。口元は確かに笑っているのに、目だけが――あの透き通った深い水のような蒼い目が――真剣で、まだ見ぬ深海のような色をたたえていました。それなのに身体は無防備で、全てをサムに投げ出していました。お互いの肌は熱く、身体を一層だけ薄く取り巻くような熱気が常に立ち上っているような気がしました。そんな熱を奪い取るかのように、サムはフロドの顔中に口ずけを落としていきました。舌で頬を舐め、唇で瞼を啄ばみました。軽く瞳を伏せたフロドはどこか酔ったような心持ちでいました。サムが自分の肌の上をとおって行くのが分かります。サムが自分の唇を吸っているのが分かります。目を瞑っていてもフロドの感覚という感覚がそれをフロドに教えていました。湿ったサムの舌が肌を通り過ぎるたびに一瞬だけ熱がすっと奪われ、そしてまた熱に埋もれるのでした。知らず知らずのうちにサムが漏らす熱い吐息が顔の産毛を揺らし、その小さな触覚がたまらない快感になってフロドの見の内を滾らせました。
「ああ、ああサム!そんな顔ばかりしないでおくれ!」
フロドが熱い喘ぎと一緒に出した言葉はあまりに率直で、サムはどうしたことかそれに従う気持ちを忘れてしまいました。もうただ主人の小さく反応する姿が愛しくて、自分の舌がそれを引き起こしているのかと思うと、それだけで眩暈がしそうでした。サムがそっと触れたり吸ったりするたびに、フロドの指や顔が小さくひくん、ひくんと動きます。まだ顔と指にしか触れていないのに、十分すぎるほど感じているようでした。
「ねえ、お願いだよ、サム!わたしを見ておくれよ。もう、辛くて。」
フロドがとうとう目を開いて懇願するようにそう言いました。目には淫猥な要求が溢れて、どうにもできない疼きを満たしてくれと言っているようでした。サムはそれを聞いて少しだけ笑みを浮かべました。それはまるでいつもフロドがサムを誘う時に微笑むその笑みのようでした。

 フロドの顔から口を離したサムは、自分の服を脱ぎ捨て、フロドの露出度の高いその夏着を肌からはぎとりました。そしてすっと片方の手だけをフロドの下肢に伸ばしました。しかしフロドが望むものを、サムは与えませんでした。自分もフロドも、もう大きくそそりたっているというのに触れもしませんでした。頭の上でフロドの自由を奪っている手はそのままに、サムはフロドの真っ白な大腿部をすっと擦り上げるように触りました。ところがフロドの反応は少なく、持て余した熱を口から吐き出すだけでした。
「ここじゃあ、ねえんですだね。」
そんなことを口の中だけで呟いて、サムはそのまま手をフロドの足首まで伝わせていきました。フロドはそれを促すように膝を腹の方へ引き付けて、サムが触れやすいようにしました。もうとっくに何かに溺れるようになっているフロドの瞳は無意識の内にサムを導いているのでした。サムの手が、足の毛に触れたその瞬間、フロドの身体がぴくんと跳ねました。一層苦しくなったかのように浅い呼吸を繰り返すフロドを見て、サムは満足げに足の甲をそっと撫で続けました。フロドの額にかかる漆黒の捲き毛と同じ綺麗な足の毛の上を、サムは触れるか触れないかぎりぎりのところを羽が触れるように何度も往復しました。
「ああっ!ああ、それはやめておくれサム!」
フロドがたまらなくなったようにそう叫びました。しかし切迫した声の中にどこか狂喜の響きが混ざっているようでした。それと同時にサムはフロドの腹に口ずけを落とそうとして、うっかりフロドの尖端を自分の胸で擦ってしまいました。今まで思う存分焦らされてきたそこは、弾け飛ぶのにその小さなきっかけだけで十分でした。
「・・・・・ハぁっ・・・」
手首を掴まれたまま、サムの唇が腹部に到達する前に、フロドは背を弓なりに撓らせて達してしまいました。濁った液体がサムの頬にかかりました。それはフロドの肌よりも、血をのぼらせて赤く染まった顔より熱かったのでした。

 そんな小さな刺激だけでいってしまったことに多少の羞恥を感じながらも、フロドは安堵の溜息を深く付きました。小さな刺激も重なれば耐えられない快感です。それだけで。と言われればその通りなのですが、フロドはその全てがサムから発せられていることを考えるだけで幸せな鋭い感覚にすりかえられることを知っていました。ですからそれをサムも分かってくれると思っていましたし、それは事実でした。しかしフロドはまだ身体の中に届かない疼きがあることを知っていました。それにまだ放たれていないサムの昂ぶりも知っていました。フロドのその様子を見て、サムは押えたような浅い呼吸を少し荒げました。そして自分の顔についたフロドのものをすっと指で掬い上げて自分の欲求を全て叶えてくれるその場所へと、運んでゆきました。

 サムはこの間、ずっとフロドの腕を掴んだままでした。床に仰向けに倒されたままのフロドの姿勢は両腕をばんざいしてるかのように頭の上高くにあげられてサムの片手に強い力で押えられていました。フロドの両足はサムに自分を見せているかのように膝が曲げられ、脇に大きく開かれていました。ちゃんと自分に触ってくれないサムを誘うかのように時折腰を浮かして揺らめかせたり、感覚の導く方へと引いたりしていました。サムは、それを見るだけで大きな波に呑まれたようになっていました。サムがもう大きくなりすぎた自分を入れるために鵐に濡れたそこは、伸縮を繰り返していつでも来いと言っているようでした。サムが差し込んだ二本の指をフロドの体内の壁に擦り付けるたびに ハアッ、ハアッと声にならない喘ぎがフロドの口から零れました。そこには焦りの色は見えても、満たされた色はありませんでした。
「もぉ・・・十分だろう、サム。はやく、はやくきておくれ。わたしばかりは辛い。」
言葉を紡ぎだすのにもそれが精一杯のフロドは首を横に振ってその感覚に耐えていました。その声があまりに強かったのと、自分の限界が近いのを悟って、サムはとうとうフロドの望むままに指を引き抜きました。そしてそのかわりに自分自身を捻り込みました。
「アァッ!」
今までとは比べ物にならない圧迫感にフロドは一瞬身を引きました。しかしサムはそれを許さずさらに前へと進めました。ぐいぐいと突かれる度に全ての感覚が焼き切れるような強烈な快感がフロドを襲いました。もう声をあげることもできなくなっていました。口を閉じようにもカラカラで、ただただ吐息が漏れるだけでした。サムの手がフロドの腰を少し持ち上げ、揺らしにかかりました。一定のリズムで刻まれる律動はフロドが気を抜いた一瞬に乱れ、フロドの良いところを凄い勢いで触ってゆくのでした。

 その繰り返しがどれほど続いたでしょう。だんだんその動きが速くなり、フロドが二度目の絶頂を迎えた時でした。きゅっという強い締め付けに、とうとうサムはフロドと共に白濁の世界へと沈んでゆきました。くず折れるようにして二人は、もうすっかり汗と唾液と体液に濡れて染みができている床に突っ伏しました。お互いの満たされた溜息とも喘ぎともつかない呼吸音を聞いていると、現実の感覚が急に戻ってくるようでした。耳には活動し始めたホビット庄の日常生活の音が帰ってきました。夏の虫たちの煩いまでの声も還ってきました。そして暑さも。今までどうして気がつかなかったのか、朝よりも暑い空気がよどんでその場を満たしていました。太陽は刺すような光りを容赦なく照り付け、風は葉一枚を動かすほどもそよぎませんでした。そのことに気が付きさえしなければ、飽きることなくこのまま繋がっていたい気持ちでいっぱいになっていたでしょう。しかしそれには暑過ぎました。サムの重みを自分の身体の上にじっとりと感じて、フロドはいつものフロドに戻った声でくすっと笑いました。
「ね、つめたくはなかっただろう、サム。それに今も暑くて。」
「へ?・・・あ!すみませんですだ!すぐどきますだ!」
サムは、はっとしてフロドから無造作に離れようと慌てました。しかしそのおかげでずるっという音と共にサム自身も引き抜かれ、フロドに何とも言えない呻き声をあげさせてしまいました。
「っう・・・」
身を起こして床に力なく横たわるフロドの秘部からとろりとしずくが滴り落ちて床板に新たな染みを作りました。それを見て、またわたわたと慌て始めたサムにフロドは微笑みかけました。
「あとで清めればいいよ。水でも浴びなきゃ耐えられないね。用意してくれるかい、サム。」
それはもうあの恐ろしいような狂気までが取り付いたのではないかというフロドではなく、いつもの主人でした。まるで毎日の掃除をサムに頼むような口調でした。
「は・・・はいっ!」
 

そうしてサムは、そこらに散らばった自分の服を大急ぎで身に付け、水と槃とフロドの為の清潔な布、それに着替えの服、床を掃除するモップを取りに走っていきました。それを見て、フロドはまたくすっと笑いました。
「あーあ、あんなに走ったら余計に暑いだろうに。」

 暑い夏は、まだまだ続きそうでした。

おわり