せんたく日より

 

「しかし暑いですねぇ。」
メリーは自分の服をぱたぱたさせてそう言いました。
「パイプをやろうって言ってもこんな暑いんじゃ火も見たくないよ。」
ピピンもそう言って外を眩しそうに見ました。
「そうだねえ。」
フロドはじっとしていましたし、あまり暑がりでもありませんから(フロドは体温が低いのではないかと、わたくしは勝手に思っております。)別に平気でしたが、この(よく言えば)活動的ないとこたちは本当に暑そうでした。
「何か涼しくなるようなことはないのかなぁ。」
フロドはそう言ってふと耳をすませました。すると、どこからか、涼しげな水音が聞こえてきました。それに混じって楽しい響きの歌も聞こえてきます。  

こんなお日さま 機嫌のいい日にゃ

せんたくせずに 何をする

ぴっかぴっかに 輝いた

お日さまの下に ましろなシーツ

さあさあ 水はり せんたくしよう

さあさあ 縄はり せんたく干そう

今日はいい日だ せんたく日より!

「これだっ!」
フロドが、え?と言っている間に、メリーとピピンはその声のする方に駆け出していっていました。
「おおい!待っておくれ!」
フロドもその後を追いかけました。そしてやっと声の出所をつきとめ、フロドがひょいっと玄関のわきのちょっと広くなっている庭の道をみると、そこには楽しく涼しげな風景が広がっていました。サムが大きな樽やら、平たいブリキの大きな桶のようなものの中で、シーツを洗っているのでした。ところがサムの表情は微妙に迷惑そうでした。なにしろサムが効率的に清潔な水でシーツをまっしろにしようと奮闘しているのに、その横からメリーとピピンが水をかけあいっこしているのです。
「もう!ちっともすすまねえじゃねえですかい!」
とうとうサムは我慢の限界だと言うようにメリーとピピンに言いました。そしてふと視線をあげると、玄関のわきに立っているフロドに気が付きました。
「旦那も何とか言ってくだせえよぉ。水がどんどん少なくなっちまう。まったく!」
しかしフロドは真剣に怒るサムがなんだか可愛らしくて、なんとなくいじめたくなりました。
「そうかい?」
そう言ってフロドは洗濯桶の近くに歩み寄りました。サムはああやっと静かになるかな、と思って気を緩めたその瞬間でした。
パッシャン!
サムの顔に小さく水しぶきがかかりました。
「フロドの旦那!」
なんとフロドが桶の水をサムにかけたのです。それからメリーとピピンにも。いとこのホビット二人組みには、フロドが水遊びをはじめたのだと瞬時に悟りました。お互いに顔を見合わせてにやっと笑いました。そしてキャッキャッと、フロドに仕返しの水をかけました。それからはもう、4人ともびっしょびっしょのぐっしょぐしょになるまで水をかけあいました。サムはあまりに3人が無邪気に遊ぶので、真面目に洗濯をする気がすっかりうせてしまいました。それに水遊びはいくつになってもとっても楽しいものです。近所のホビットの子供たちが見ても笑われるほど、4人は夢中になってせんたくとは名ばかりの水遊びをして大騒ぎしました。

シーツもどうやら(なんとか)洗えたようです。水遊びの続きで4人は縄を木と木の間に渡して、まっしろな布を空に向かってはためかせました。それはとても気持ちの良い眺めでした。今日はホビット庄のあらゆるところで白い布がひるがえることでしょう。本当に今日は、せんたく日よりなのでした。

続く。