23・再会

 

溶岩の中、取り残された岩の上に、希望を見たホビットがふたり横たわっていました。その手はかたく握られ、ふたりのホビットはしっかりと抱き合い並んで倒れていました。風に乗り、疾風のように舞い降りたグワイヒアと大鷲たちがふたりをそっと掴みました。そしてうっすらと記憶が消えてゆく中、フロドは身体が宙に浮くのを感じているような気がしました。

フロドは目を覚ました時、何か真っ白でやわらかいところに寝かされているのを感じました。陽の光が窓から差し込み、鳥がさえずっている声が聞こえてきます。かんばしい香りがそこはかとなく漂い、澄んだ空気が肺にいっぱいに入りました。フロドははじめ、その眩しさに目を開けることができませんでした。まるで世界中が真っ白い光に包まれてしまったかのようでした。しばらくたつと、フロドにはそれが夢の中や、増してや死後の世界などではないことが分かりました。いいえ、もしかしたら一瞬そうなのかもと思ったのかもしれません。なにしろそこにはガンダルフがいたのですから。ですが、フロドにはこれが現実だと、体中のどこもが言っていました。すっきりした頭で考えても、これは本当に今ある自分の感覚を信じてよいと何かが言っていました。そしてフロドはもうかすれもしていない声でその名を呼びました。
「ガンダルフ?あなたなのですか?」
そうすると、目の前にいた真っ白な魔法使いは少年のように目をきらきらさせてフロドに静かに笑いかけようとしました。しかしそれは失敗に終わり、喜びのあまり涙と共に爆発するような大きな笑いとなってその口から溢れ出ていきました。
「そうじゃよフロド、ああ、そうじゃとも!」
その笑い声は、朗々と響きその涙は胸に暖かいものを運んできました。フロドは分かったのです。全てが終わり、そして自分はここにまだ存在していることが。そしてそのそばには、心のどこかで信じていた通り、ガンダルフが生きていたことが。フロドは笑いました。本当に心から嬉しそうに笑いました。声を出して、まるで子供のようにはしゃいで声を出しました。しかし喜びはそれだけでは終わりませんでした。そっとドアの外からこちらをうかがうような気配がしていましたが、ガンダルフがいつものようにいたずらっ子のような目でそちらをちらりと見ると、その気配たちが飛び出してきました。
「やあ、いとこさん!」
「フロド!よかったよぉ!」
喜びに顔をくしゃくしゃにしているガンダルフが、それでもおいおいと止めかけるほど、このホビットふたりは元気よくフロドに飛び掛ってきました。このふたりが、喜びを身体の内に留めておけるわけがありませんでした。
「メリーにピピンじゃないか!」
フロドは飛び乗ってきてやたらと自分を触りたがる親戚たちの頭をかっしとつかまえて、まだ力の入らない腕で精一杯ふたりを抱きしめました。
「ああ、生きていたのだね。嬉しいよ、本当に!」
その後から、どんどんなつかしい仲間が入ってきました。まずはギムリです。
「ギムリ!」
フロドはその小さくとも堅固な感動屋のドワーフの顔を見ました。もう、ギムリは泣き顔でした。それでも笑いが止まらないようでした。ギムリは指で目頭を押さえながらフロドを見て、もう一回豪快に笑いました。すぐ後に続いたのはレゴラスで、ドワーフの肩に手を置いて、そっと微笑みながらフロドを見ました。エルフの表情は常に美しく、フロドにはそのうっすらとした微笑がどれほどエルフにとって喜ばしいことのあらわれであるかを正確に分かることはできませんでした。しかしその美しい顔は、確かに喜びにあふれていたのでした。そしてアラゴルンがその後に続きました。
「ああ、馳夫さん!」
それは、フロドにとってもアラゴルンにとってもなつかしい名でした。そう呼ばれていた頃のままの、少し歪んだような笑い方がフロドは大好きでした。何だか妙に綺麗な格好をしていて、馳夫と呼ぶにはあまりに美しかったのですが、フロドにとってはそれでも以前のままの馳夫なのでした。
 

一通り仲間の顔を見て、フロドは本当の安堵に包まれようとしていました。しかしすっと笑いが引き潮のように引いた瞬間、フロドははっとしました。ここにいない者がふたりいました。帰らぬひととなったボロミア、そしてサムでした。
「ガンダルフ!サムはどこです?サムは!確かにわたしの手を握って、ずっと側にいてくれたのに!」
そのフロドの言葉はあまりに切羽詰っており、その目は半狂乱の様子を呈していました。しかしガンダルフはすっとフロドの側に寄り、そして肩に手を置いて言いました。
「もちろん無事じゃよ。お前さんとサムワイズが一緒におったところをグワイヒアたちに運んでもらったんじゃからな。ほれ、入ってくるがいい。」
はっとフロドが開け放たれたドアを見ました。するとそこから、もじもじと何か白くて小さいものが入ってきました。ちょうどホビットのサイズのようですが、着ているものが白く輝く美しい布で、それはあまりにホビットの素朴さに似つかわしくないものなのでした。
「・・・・・・」
ふたりに言葉は何も要りませんでした。そこにお互いが存在している。ただそれだけで、もう何も言うことはありませんでした。それは言葉にすれば消えてしまうような瞬間でした。生きていることに感謝をし、存在する喜びをかみ締め、お互いのどちらも欠けることなくこの場にいる幸せを抱きしめていました。

  「新しい時代」に続く。