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お花畑
さて、4人は思う存分パイプ草を楽しんだようでした。ガンダルフのようにはうまくいかなくても、小さな輪を作ってみたり、小さな玉にして空に浮かべてみたりしました。そしてあらかた草がなくなったところでピピンがきらっと目を輝かせて何か思いついたようでした。
「ねえフロド!こんないい天気なんだよ!どこかに出かけようよ。きっと外で食べた方がお昼ご飯もおいしいに決まってる!」
いつもこのトゥックの若旦那の言い出すことときたらいいかげんで突拍子も無いことが多いのですが、今日の発言は実に今日という日にふさわしいように思えました。それはサムももちろん同意したくなるほどに。フロドにそれを反対する理由などあるはずもありません。早速4人は即席のお弁当を作ってピクニックにでかけました。
「いやー、いい天気だし、気持ちいいですね!」
メリーが先頭に立ってフロドたちをどこへか分かりませんが、連れて行こうとしていました。
「どこへ行くんだい?」
フロドがそう聞いても、
「きっとあなたも気に入るところですよ。」
そんな答えが返ってくるだけでした。しかしフロドもサムもメリーのその頭の中に詰まっている色んな楽しい知識をかけらも疑っていませんでしたので、おとなしくついていきました。それにメリー以下4人は、今日のお昼ご飯を考えるだけで幸せになるのでした。即席とはいえ、サムの作ったお弁当です。ホビットたちにとって大きなバスケットに詰め込んだそれは、今にも食べてくれと言い出さんばかりに魅力的なものでした。くるみの入ったパンを薄くスライスして青チーズとベーコン、それにシャキシャキの野菜たちをサンドしたもの・冷たく冷やしたミルクにエッグノックにショウガ水・昨日の残りのコールドローストビーフ・ちょっぴりすっぱいとっつぁん特製のピクルス・ふんわり白いパンがいくつかと珍しいバラのジャムに様々なベリーのジャムとバタ・さらにはりんごや道端で積んだ野いちごなどもありました。もうそろそろホビットたちのお腹も限界です。ねえメリー、まだお昼にしないのかい?フロドがそう言おうと思ったその時でした。
「あ!見えました!ここですよ!」
メリーがいつものニヒルな笑いではなく、目をキラキラさせて子供のように喜んだ目でフロドたちを振り返りました。
「わぁっ・・・すごい・・・」
思わずそう言ったのはピピン、それに対して呆然と口をあけてその風景に見とれているのはサムとフロドでした。そこには、青と白と緑の世界でした。メリーが連れて行ったそこは、真っ白なお花畑でした。どうしたことか、その花畑の周りだけ木がよけて生えているようでした。木々に囲まれたそこには白一色の花々が所狭しと今が盛りに咲き誇っていたのでした。息を吹きかけるとすぐに飛んでいってしまう綿毛のような柔らかな純粋な白の花。その足元にちらっとのぞく萌え出たばかりの新緑の葉、それにいつの間に雲たちはどこへ行ってしまったのか、雲ひとつない青空。それは目が覚めるような光景でした。
「ねえっ?すごいでしょう。」
ここぞとばかりに嬉しそうにメリーが言いました。
「すごいなんてもんじゃないよメリー!最高さ!」
ピピンが感動して言いました。そんな言葉にえへへとメリーは笑い、まだ口をぽかんと開けている庭師とその主人(とお弁当の入ったバスケット)を花畑の真ん中に引っ張ってきました。
「さあ!ここでお昼にしましょう。」
楽しい楽しいランチ・タイムの始まりでした。
続く。
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