19 まくら投げ

 

「今日はみんな泊まっておゆき。」
ビルボが本を、ごちゃごちゃといろんなものが積んである本棚に戻しながら言いました。
「こんな日だから、たいそうな寝具はいらないだろう?」
「ええ、そうですね。このタオルケットと、あとはまくらさえあれば。」
フロドがそう言って、ビルボがまくらを出しに行きました。
「ってことはなんですか?つまり今日は僕たちガンダルフ用のあのベッドにみんなで眠れるってことでしょうか?」
何かの期待を込めて、メリーがそう言いました。
「そうだねぇ・・・」
少し値踏みするようにフロドがちらっと横目でまくらカバーを探しているビルボを見てそう言いました。
「まくらもクッションも、なんだかたくさんあるみたいだし。是非そうしよう!」
ピピンも、ここぞとばかりにメリーに加担して言いました。
「そうだね。よし!そうしよう。ね!ビルボ!いいでしょう?」
「分かった、いいとも。ただし窓だけは壊さないでおくれよ。」
「はいはい♪」
これから起こることを予想してのビルボの言葉に多少苦笑しながら、それでも上機嫌にフロドは言いました。
 

「お泊りとくりゃ!」
泊まる用意ができて、寝巻きに着替え終わったところで、ガンダルフ用の大きなベッドに突然立ち上がってピピンが宣言するように言いました。脇にはもちろんまくらを一つ、かかえています。
「まくら投げでしょう!それー!」
ヒュッと音がしたと思ったら、それは見事にサムの頭に後ろから当たっていました。やわらかい音がして、サムの頭からぽろっとふかふかのまくらが落ちました。
「おおあたりー!」
キャッキャッとおおはしゃぎで笑うピピンに、サムがくるうりと頭を向け、ちょっぴり恨みがましい視線が突き刺さりました。しかしそれには動ぜず、ピピンは早くも次の獲物を求めて足元にあるクッションを一つ取り上げました。するとどこからか2つまくらが飛んできました。
「甘いなピピン!一つずつ投げてちゃ。」
うまくピピンの手元に当たったそれは、軽い音をたててベッドの下に落ちました。
「何するだー!」
さらにそこへとサムの怒りがこもった一発が飛んできます。
「きゃー♪」
歓声をあげてピピンが逃げます。そこらに寝ていたフロドのわきをするっと抜けました。するとどうでしょう。いかにもありそうなことではありますが、サムの投げたまくらが見事にフロドの顔の真正面にぼすっと当たりました。
「さーむー!」
怒ってるんだか楽しんでるんだか喜んでるんだか分からないような(でもある意味真剣な)声で、フロドがにったりと振り向きました。
「ひぃー!すみませんだー、旦那ぁー!」
クッションを構えたフロドがサムに向けて渾身の一発を投げました。どたどたと逃げ回るサムに、今度はメリーが当てようとして、やはり狙ったものではなく、今度はピピンに当たりました。それからはもう、大混戦でした。せっかくおふろに入ったのが無駄にならない程度に疲れるまで、4人はまくら投げを満喫しました。どうして夜にまくら投げをするとこんなにテンションが高くなるのか、わたくしにもさっぱり分からないのですが、とにかく楽しいものは楽しいのです。さっきまでの、夢のようなゆっくりした時間帯はもはやここにひとかけらもなく、ただただ楽しい時間が飛ぶように過ぎてゆくだけでした。

続く。