木登り

 

せんたくが終わるとサムの午前の仕事は終わりです。フロドはやっとさっきのパイプをふかすことにしました。まだ4人はなんとなく湿っぽかったのですが、この陽気です。そのうち乾くだろうと、当初の目的であるパイプ草に目標を変えました。
「そうだ!あの木に登ってふかそうよ!」
ピピンがちょっと目をきらきらさせて言いました。ピピンが言っているそれは、お屋敷の上に生えている背の高い木でした。その木はホビット庄のシンボルと言っても良いほど立派な枝ぶりで、しかも登りやすそうな枝もたくさんのびています。それにホビット庄中がひと目で見渡せます。
「きっと服も乾くし、気持ちいいでしょうね。」
メリーもめったに登れない袋小路屋敷の木を見てそう言いました。いつもはビルボがその木を大事にしていて、登るどころか触らせてもくれませんでした。でも当たり前ですよね。あのわんぱくトゥックにブランディバックの若旦那たちです。自由に登らせて木が無事な訳ありませんもの。さてさて、フロドはちょっと考え込みましたが、まあいいか。と思いました。わたしのいるところじゃ、あの二人も枝を折ったりはしないだろうさ。

そういうわけで、ホビットたちはお山の上の大きな木に登ることになりました。

 はじめ、サムはフロドが木に登るのを、かなりはらはらしながら見ていました。メリーやピピンたちは手馴れた動作でひょいひょいと登っていきます。サムが、もしかしたらこのホビットたちはビルボ大旦那の目を盗んでこの木に何度も登りに来ていたのではないかと疑ったほどです。しかしサムはそんなことは頭の片隅に追いやって、フロドの心配だけをしようと思いました。フロドがこんなところで落ちでもしたら大変です。サムは、自分がさいごに登ることにして、フロドが無事に登り終えるまで下で待つことにしました。そしてもし、万が一フロドが落ちてきでもしたら、受け止めようと構えていました。しかしそんなサムの心配は全くの無用でした。フロドはもともとわんぱく坊主だったのです。木登りなんか平気でやります。それにもし落ちたとしても大丈夫だという自信もありました。なにしろ身が軽いですし、この木にはよく登ったのですから。でも、下であからさまに心配そうな顔をしたサムがひかえているのを見るのも、悪くないなぁと思っていました。そしてあっと言う間に、フロドは自分のお気に入りの枝に腰掛けてサムを手招きしました。
「ほら!おいでよサム!」
そこでやっとサムはほっとしたようです。フロドの笑顔を見て、自分も木によじ登り始めました。

続く