22・開放
滅びの山から出たふたりを迎えたものは、安息の地でも、休息の場でもありませんでした。歩くことさえままならぬ崩れ行く岩々を飛び越え、最後に辿り着いたところは、溶岩の真っ只中のたった一つ残った小さな岩の上でした。もうこれ以上は進むことも戻ることもできません。見渡す限り赤い炎が舞い、黒い煙が噴出し、熱で溶けた岩が流れ出ていました。もうどこにも行けないと、呼吸すらできなくなりかけたサムがその岩の上で膝をつくと、フロドはサムの手を握ったまま仰向けに寝転がりました。サムが息を整え、フロドを見ると、フロドは本当に嬉しそうに笑って目をつむっていました。
「終わった。これでおしまいだ、サム。」
それは全てから開放され、もとのただのホビットに戻ったフロドでした。そしてうっすらと目をあけてサムを見ました。その瞳にはもう狂気も恐怖も何も浮かんではいませんでした。ずっと前、もうどれくらいになるのか思い出すことすらできないような昔と全く同じ、フロドの青い瞳でした。
「ええ、フロドの旦那。終わりましただ。終わったんですだ。」
サムはその時、体中から喜びしか感じられませんでした。このふたりを取り巻く破滅の真っ只中にいるというのに、ただ歓喜だけがサムを、そしてフロドを満たしました。重荷は消え、主人はもう全てから解き放たれたのです。そしてサムは、フロドに寄り添うように身を横たえました。そしてフロドの手を握り、そっと手の甲をなでました。
「ああ、おかわいそうに、そのお手が。おらのもんと変われるもんなら、腕ごとだって差し上げてもいいだがな。でも、ここにあったもんはもうなくなっちまった。消えたんですだね。」
「ああ、そうだね、わたしのサムや。」
フロドはそう言って、サムの手の上にもうひとつの自分の手を重ね合わせました。
「ねえ、サムや。わたしにはやっと見えてきたよ。お前が言っていた風景がね。ホビット庄がこの目に見えるよ。ブランディワイン川、袋小路屋敷、それにガンダルフの花火も、ビルボのパーティーの木も。それから、お前の作ってくれたクリームも。それがかかったいちごもね。」
フロドにも、やっと見えたのでした。今までどうして思い出せなかったのか、もう分からなくなるくらい大切な、守るべき土地が、守るべきものが。
「ええ、ええ。おらにも見えていますだよ。そしておらの横にはフロドの旦那、旦那が座ってますだ。そしてにっこりお笑いになってらっしゃる。もう一度見たかった風景が、おらにも見えますだ。」
そうしてサムは、涙をこぼしました。
「お前がここに一緒にいてくれて嬉しいよ、わたしのサムや。全てが終わる今、わたしの側にいてくれてね、サム。」
「ええ、そして旦那のおそばにはおらがいますだ。」
サムはフロドの傷ついた手を自分の胸の上に置き、そっとなで続けました。そしてフロドはサムを抱きしめ、そっと頬を寄せて本当に幸せそうにそっと笑いました。それはそれは美しい微笑みでした。そして、全てがもとある暗闇に還っていったのでした。
「再会」に続く。 |