16・イシリアンで
夜中歩いて昨日より明るい昼の光がさしてきました。ゴラムはもっと進むつもりでしたが、どうせっついてもやはりフロドには辛かったようでした。フロドは小道に入ると、サムの腕からくずおれるように倒れこみました。 しかしそれもつかの間でした。サムはフロドを座らせて、水を汲んだり、色々な植物にさわったり匂いをかいだりして食べられるかどうか調べているうちに、旺盛なこの植物の下にあるものを見つけたのでした。それはまだそう古くない焼け焦げた跡と、ばらばらになった骨や頭蓋骨でした。サムは死者の沼地の時よりもずっと、ぞっとして手をひっこめました。蔦や蔓がそれらを多いつくし、美しい緑が広がっている分、余計にそれは恐ろしいものに思えました。 しばらく行くとサムは去年の羊歯がふかふかになっている場所を見つけました。そこにはちょうどもたれられるようなものもありました。ゴンドールの美しき庭、イシリアンの忘れ物でした。サムはフロドを風化しかけた石の像にもたれかけさせ、先ほど汲んだ冷たい水とレンバスを二、三口食べさせるのが精一杯でした。フロドは口にそれを含みながらも休息たる眠りに落ちてゆきました。サムはそんなフロドをじっと見つめていました。山陰に遮られながらもかすかに届いた朝日が木々の間から漏れ来るだけの光しかありませんでしたが、サムは主人の顔をまざまざと見ることができました。そして横に投げ出された白く細い手も見えていました。サムは突然、裂け谷にいた頃のフロドを思い出しました。まだフロドがモルグルの傷から回復しきらず、エルロンドの館で眠り続けている時の様子を思い出したのでした。サムはあの時ずっと主人を看取りながら、かれの身体から時々光が射すように感じたものでした。今ではそれがいっそう鮮明になり、光は白いフロドの肌を透けて外へとやわらかく射しているようでした。眠るフロドの顔は安らかでした。恐怖も苦しみも、何もかもから解き放たれた静かな表情でした。しかしその顔は年老いて見えました。それなのにたいそう美しいのでした。しかしフロドに何か変化が起こっているわけではありませんでした。かと言って、サムがそう思い込んでいるのでもありませんでした。サムは自分の言葉が役に立たないのを悟っているようでした。そして首を振り、フロドに触れることなく小さく呟いたのでした。 「兎のシチュー」に続く。 |