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The sequel to the story

 

 やっとのことでサムはお風呂をわかしにお屋敷へ、フロドはくしゃくしゃになってしまった服と汚れてしまった身体をきれいにするために同じく部屋へと去ってゆきました。お風呂の湯の跳ねる音が聞こえ、フロドとサムの声が遠くなってしまってから、メリーはやっとのことで木から下りてきました。
「ふー・・・えらい目にあったなブランディバック!」
メリーはとにかくもう一時間以上固まっていましたのであちこち筋肉痛になっているのをほぐしながらそう言いました。しかし急には芝生の上から動けず、なんとなくまわりに漂うかれらの香りに頭がくらくらする気持ちでした。その上、見ていただけだというのに、あろうことか身体は十分反応してしまって、それがなおってまっすぐ歩けるようになるには時間がかかってしまったようでした。そしてそれらが元通りになって、屋敷の裏庭をそっと抜け出し、夕方早くからやっている酒場にたどりつき、ふとさっきのフロドの言葉を思い出しました。
「大切なお客様がくるんだ・・・って言ってたっけ。それってもしかしなくても僕のことか?あの仕方がないいとこさんは、言外に僕を夕食に誘っているって言うのか?ああー、どうしよう!何を言われるんだろう!」
そんなことを悶々と考えるメリーは、とてもではありませんが、しらふではお屋敷に行けませんでしたので、酒場のおやじさんにビールをジョッキで頼みました。そして日も沈む頃、ほろ酔い気分で(ややヤケクソ気味に)お屋敷に向かって歩き始めました。

 

「やあよく来たね。」
メリーがお屋敷の戸をトントンと、今日の昼とは打って変わって遠慮気味に叩くと、すぐにフロドがひょいと顔をのぞかせてそう言いました。それがあまりに普通だったので、メリーはがっくりときてしまい、先ほどまで飲んでいたビールの酒分も手伝って、玄関先でへたりこんでしまいました。
「おいおい、大丈夫かい?おーいサム!・・・っと、今日は返しているんだった。仕方がない、運ぼうかな。」
頭の中がまだぐるぐるしているメリーを、フロドはそんなことを言いながら一人でずりずりとキッチンのテーブルまで運んできました。
「さあて、ブランディバックの若旦那は聞きたいことがたくさんあるようだね。」
メリーにお茶を出し、自分の分も用意してメリーの向かいに座ったフロドは、少し空恐ろしいような微笑でそう言いました。メリーは、酔っ払っているのも手伝って、もうどうにでもなれという心意気でしたので、思い切って今までぐるぐるしていたことを口に出してみました。
「・・・フロド・・・どうして僕を見つけたときやめてくれなかったんです!」
そのメリーの声があまりに大きかったのと、予想外の訴えだったので、フロドは目をぱちくりさせてしまいました。一瞬フロドが答えにつまっていると、さらにメリーが付け加えました。
「あなたがやめないから、僕はあの場から結局動けなかったんですよ!どうしてくれるんです!もう僕はまともな顔してこの屋敷に来られない!」
かなり真剣なメリーでしたが、フロドの目には面白そうな光がきらっと入り、一瞬のちにフロドはぷっと吹き出してしまいました。
「な・・・何がおかしいんです!」
メリーのお怒りはもっともです。もっと深刻な話になるか、それとも口止めをされるか、色々考えてきたメリーにとって、フロドの笑いはとんでもない反応でした。それなのに、フロドはなんだか安心したかのように、そしてもう全ての問題が解決してしまったかのようにくすくすと笑いながら話し始めました。
「なんだ、メリー。そのことで怒っていたのかい?わたしがやめなかったことに?アハハ〜」
「アハハじゃありませんよ!こっちの身にもなってくださいっ!」
「でもね、あそこでもしわたしが君に気がついて、それでサムにやめろと言ったら、サムも君に気がつくことになるだろ?そんなことをしてごらん、ほら、サムが恥ずかしがるでしょう。それにどうせあそこで止められなかったわけだし。止めたくなかったしね。」
「なっ・・・なっ・・・!」
あんまりな言いように、メリーは赤面するより他ありませんでした。あまりのことに言葉もありません。それなのにフロドは平気な顔で話を勝手に(聞いていないことまで)どんどん進めていったのでした。
「わたしはてっきり、君がわたしとサムの仲をはじめて知って、それに対して抗議か文句でもつけに来るのかと思っていたよ。そしたらわたしは君にきっちりサムとの仲を言うつもりだったんだがね。というのは、ほら、これを見て。」
そう言いながら、フロドは胸元から細い鎖に通した例の指輪をするすると引き上げてきました。
「わたしとサムはね、もう随分前になるけれど、ビルボがここを出て行くときに、愛を誓い合った仲なんだよ。」
「なっ・・・」
恥ずかしげもなくそんなことを言うフロドに、メリーはもうただあわあわと動揺するばかりでした。いつもの冷静沈着?なメリーはどこへやら、すっかりフロドのペースにのせられていました。
「でね、その時に交換・・・というか渡し合った指輪がこれなんだよ。大きい人たちはね、よく結婚の誓いに指輪を使うらしいんだ。ガンダルフに聞いたからきっと確かなんだろうね。」
「けっこ・・・」
ほうけたような顔になってしまったメリーでしたが、そのなにやら現実的な言葉の前に、やっと自分を取り戻したように反論しはじめました。
「ガンダルフはああいうひとですからね、それは構いませんけど。でも僕はもう絶対にあの木には登りませんよ!」
「はっは、それはよかった。もとはと言えば、ビルボも大切にしていたあの木に登った君が悪いんだからね。今回のことはそのおしおきだと思ってもらってかまわないよ。」
「分かりましたよっ!」
そうしてたまらなくなったメリーは、だだっと袋小路屋敷を飛び出してゆきました。そしてにやりと笑うフロドだけが残されました。
「さあて、メリーも帰ったし。」
そこでフロドは辺りを見渡して言いました。
「サムでも呼び戻してくるかな。」
こうして今日も、平和なホビット庄の夜は更けてゆくのでした。

 

 その日、メリーが無理やりピピンを起こして、不機嫌に朝までヤケ酒をしていたことは、かれの名誉のために伏せておきましょう。

 

 そしてフロドとサムは、それからもずーっと幸せに暮らしましたとさ。

 

おしまい