28・不吉な旅立ち
「スメアゴル!」
フロドの少し高めの声が林の中に響きました。
「まったく、どこ行っちまったんだ、あいつは。」
サムのぶつぶつ言う声も小さく聞こえました。ゴラムはフロドたちと一緒にファラミアのもとから放たれ、自由になっているはずでした。そしてフロドの言う、「スメアゴルは約束を確かに守る」のならば、またフロドとサムを案内してくれるはずでした。サムはもうどっか行っちまったんでしょうよ、と言いましたが、フロドがゴラムを必要とするので一緒に探していました。そう、確かにゴラムはすぐ側にいたのでした。
「旦那は・・・旦那はわしらのめんどうみてくれるよ。旦那はわしらを傷つけたりしないよ。」
「旦那は約束破ったよ。」
「そんなこと言わないでおくれよ、かわいそうなスメアゴルによ。」
「旦那はわしらを裏切ったよ。ひどいしずるいしだましたんだよう!嫌なちっこいくびねっこをひねってやりたいんだよう!殺せ!殺せ!ふたりともよ!それでいとしいしとはわしらのものよ、わしらがいとしいしとの主人になるのよ。
「でも太ったホビットはわしをいつも見てるよ。」
「そしたらあいつのめんたまをほじくりだしてやるよ、はいつくばらせてやるよ!」
「そうよ、そうよ、それがいいよ。」
「殺せ!どっちも殺せ!」
「そうよ、・・・ちがうよ、だめだよ、できないよ。危なすぎるよ、危ないよ。」
ゴラムは木の陰に隠れながらフロドとサムの近くをずっとついて来ていました。
「おおい、どこ行ったんだ?ゴラムやーい!どこにいるんだ。」
「スメアゴル?出ておいで。」
ふたりは交互にゴラムを呼び合い、ゆっくりあちらこちらと木の間をのぞきながら歩いていました。
「わしら、あのしとにやらせるのがいいよ。」
「そうよ、あのしとならできるよ。」
「そうよ、いとしいしと、あのしとならできるよ。それでわしらがいとしいしとをとればいいのよ。あいつらが死ねば。」
「あいつらが死ねば・・・」
突然、ゴラムがホビットの前にぴょいと飛び出してきました。その目は邪悪さを隠し、いかにも従順に主人に従う犬のように無邪気に見えました。これから案内するのが嬉しそうな、そんな表情でした。
「おいで、おいでよホビットさん。まだまだ長い長い道よ。スメアゴルがつれてくよ。さあ、おいでよホビットさん。」
ゴラムは、意識的に自分を「スメアゴル」と言ってのけました。彼の中で、二つの力が力をあわせてしまったのでした。たった一つ、ホビットを殺しいとしいしとを取るために。
「わしについておいで。」
それはまだ感じられぬ不吉な道程の始まりでした。フロドとサムはこれから起こる、信じがたい恐怖に向かって歩き始めたのでした。どこでこうなってしまったのか、それは誰にも分かりませんでした。ただ、かれらはかかる時代に遇うべく宿命づけられていたのでした。そしてフロドとサムは、のりだしてしまった旅を、絶望への旅を、続けてゆくのでした。
「The
Two Hobbits 3」へ続く。
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