19・ゴンドリアン
スメアゴルが消えてフロドがその姿を探そうとしたその時でした。突然、ひゅんひゅんと弓の音が辺りに響きました。何気なく隊列を組んでいた、下の道を行軍する人間たちの列は崩され、じゅうたちは興奮してさらに荒々しい足音を響かせてあらゆる方向に走り出しました。茂みの陰に、フロドは顔までマントで隠された人間たちをちらっと見ました。何が起こったのか、フロドは一瞬で理解しました。彼らは人間たちを待ち伏せしていたのです。サムは獰猛に暴れるじゅうをまだ見ています。フロドは自分の立場の危険さを悟りました。それに、いくら悪い人間だと聞いても、いくらこれからモルドールに向かうのだと聞いても、人間同士の殺し合いを見るのは決して気持ちの良いものではありませんでした。すると一頭のじゅうが、狂ったようにフロドたちの前まで突進してきました。さすがのサムも今度は恐怖と驚きで動けずに目を見開きました。どさっと、重いものが落ちる音がしました。ふたりのすぐ側です。ふたり同時に視線をやると、そこにはじゅうから落ちた黒い髪の人間がいたのです。その人間は、死んでいたのでした。 フロドとサムは目隠しをされてどこかに連れて行かれているようでした。背の高い、全身を緑がかったマントや服装で覆った人間たちに囲まれていました。フロドは目隠しをされる前に彼らを見て、まるでボロミアのようだと思わずにはいられませんでした。かれらの背格好や、きらきらと光る鋭い視線、話し方までがボロミアとそっくりなのでした。どこか高貴で、どこかあやうくそして強い。フロドはそう思ったのでした。しばらくふたりは沈黙の中を歩かされました。その歩調は決して遅いとは言えません。ましてやホビットたちただでさえゆっくり歩くのに加え、視界までも奪われているのです。早く歩けようがありませんでした。しかしその連行の様子はそれほど乱暴でも虐げられていたわけでもありませんでした。なにか決まりのようなものを、フロドはその中に感じることができました。会話はできません。フロドはサムの息遣いだけを感じていました。離れてはいません。こんな状況でも、サムと一緒なら。どこかそんな風に考えていたのかもしれませんでした。 そんな状況がどれだけ続いたのでしょうか。フロドはふいに、あの大将らしき人物の声と、周りの声を聞き取れることに気が付きました。少し遠いのですが、確かに会話が聞こえました。 「ファラミア」に続く。 |