Bourgeois? 2

 

 サムは、さーておかしなことになったもんだと思いました。しかしまだお酒が効いているのか、深く考えることはできずに、なんとなくソファの上でぽーっとして座ってフロドを待っていました。もちろんそこへ登場したのは満面の笑みを浮かべたフロドでした。
「さあて、サム。」
サムはそのフロドの言葉になぜだか知りませんがどきっとして、冷汗が流れました。
「な・・・なんですだ?フロドの旦那。」
「ふふ、じゃまものはいなくなったよ。」
「じゃま・・・って、旦那が招待なすったんじゃなかったんで?」
「そりゃあそうだけどね、まあそれはそれ、これはこれ。とにかくやっと、二人きりになれた。」
そうしてフロドは何やら手に持ってサムの側ににじり寄りました。いつもならフロドが近くにいさえすれば、サムは幸せです。でも今晩のフロドは目が据わっており、なんだか空恐ろしく感じられました。
「え・・・ええ、そうですだが・・・」
「ん?なに?」
そう言いながら、フロドはサムの座っているソファに自分も腰掛けようとしました。もちろんサムのいるソファは一人用のです。暖炉のすぐ右脇にフロドの一人用のソファ、その向かいに(つまり暖炉の左脇に)メリーとピピン用の二人用のソファがありました、そして暖炉柵の前にはしっとりとした模様が織り込んだ絨毯が敷いてあり、ワインのびんやらグラスやらが乗った小さな机がありました。サムはその机よりも暖炉から遠いところに座って円座を作っていました。それはさておき、とにかくフロドは行儀の悪いことに足で机をわきへ寄せ、ソファというよりサムにもたれかかりました。
「ふ・・・ふ・・・フロドの旦那ぁ?!」
フロドのちょっとアルコールの入って熱くなった吐息がサムの右耳にかかる頃、サムはたまらなくなってすっとんきょうな声をあげました。
「一体どうしたって言うんですだ?このソファは狭いですだ。」
「そうだね、狭いなぁ。」
そう言いながらフロドはなおもサムに擦り寄り、その白い両手でサムのほっぺたをつるんと撫でました。そしてサムを煽るように右の耳元で小さな声で囁きました。
「これでわたしを鳴かせてくれる?」
サムが、へ?と、すっとぼけた声をあげた瞬間のことでした、サムの鼻孔を、今までかいだことのないような香しくそれでいてとりつかれるような、体じゅうがおかしくなりそうな、濃厚な匂いがくすぐりました。サムは頭がくらくらしてソファの後にもたれこんでしまいました。それを見てフロドはフフっと笑い、そっとサムに口付けしました。フロドが口付けたサムの唇に、さっきよりずっと濃い匂いが残りました。サムはもうなんだか世界がぐるぐる回っているようだと思わずにはいられませんでした。

「うーん、サムがこんなになるとはやっぱり効果は期待できそうかな。」
サムはぼんやりする意識の中でそんな声を聞いたような気がしました。そうしてサムが気が付くと、サムは暖炉の前の絨毯に寝転がっており、(しかも上半身の着ていたものがありません!)その上にフロドがのしかかっていました。
「んー、」
フロドがまた何かに唇を濡らしてサムにキスしようとしました。
「い・・・いけませんだ、旦那!」
とりあえずサムは、あまりのことに、呆然となりながらもやっとのことでそう言いました。
「どうしてだい?わたしとこうすることが嫌なのかい?」
「そういうこっちゃねえですが・・・」
「ならいいさ。」
そうしてフロドは目に煽情感をにじませてサムの体を探り始めました。体中の感覚がしびれたような、眩暈がするような、それでいてどこか疼いているようなそんな感覚でした。
「だ・・・だんなぁっ・・・」
フロドの手が、サムに触れるとそれは何かで濡れているようでした。しかも体の痺れはそこから来ているようです。
「な・・・なんですそりゃ!?」
サムはフロドの手をぐいっと掴み、フロドが使っている正体不明の液体の出所を見ようとしました。するとどうでしょう。フロドの手から小さなびんが落ち、フロドの身体とサムの体に中の液体がすべてかかってしまいました。そしてサムがその液で濡れたフロドの身体を(本気かどうかは定かではありませんが)押しのけようとしてフロドの胸に触れた瞬間です。
「・・・ぁっあン」
フロドの口から、それはもうこの世のものとは思えないほどの凄まじい嬌声がもれ出たのでした。サムは驚いてぱっとフロドから手を離しましたが、逆にフロドは力を失って、サムの胸の上にどさっと倒れこんできました。ふぅ、はぁと胸の奥から湧き出てくるような喘ぎをしながら、フロドがまたサムにささやきました。
「メリーにもらった香油の効果だ、サム。なんだかもう、がまんできないよ。」
そんなことを言われても、サムも先ほどから焼き切れそうな理性の最後の1本をつなぎ止めるのに必死で(それも結局無駄になるのですが)話を聞いてる場合ではありませんでした。何しろフロドに負けず劣らず体中にかけめぐる血が沸いて仕方なかったのです。それなのにフロドは続けます。
「ねえサム、お前でためす?それともわたしで?」
このフロドの問題発言は、なかなかとんでもない問題でした。つまり作者にサムフロかフロサムかを選べと言うのです(違)。困ってしまったのはわたくしだけではありません。もちろん当事者のサムが一番困っていました。
『え?え?おらか旦那?どういう意味だ?旦那の言ってることはよく分かんねえ。は!もしかしておらに立場っちゅうやつを選べっておっしゃるだか?そんなめっそうもねえ!旦那がおらの中に、おらがするみたいに入るだなんて!』
サムにしては勘のよいことに、フロドの意図していることが概ね理解できたようでした。嫌だと分かっていてもどうしても逃げ腰になるサムを、フロドは逃がしませんでした。もう言葉は必要ありません。フロドは実力行使に出ました・・・

3に続く。