青い空白い雲

 

 サムはその声を聞いた瞬間から、またこの幸せな甘い空気が台無しになると信じていました。(それはのちに良い意味で裏切られるのですが、それは後になってから分かることでした。)ですから庭先で小さくぼそっと呟きました。
「まぁたメリー旦那にピピン旦那だよ。よくもまあ懲りずに何べんも来るもんだ。今日はなんの騒ぎにフロドの旦那を巻き込もうって相談だい。」
サムの思考はフロドにかなり感化されてフロド寄りになっていましたから、そんなことをいつも思っていました。フロドが幼い頃はかなりのわんぱくホビットだったことは、いつも棚上げでした。 サムはぶつぶつ言ってふたりを無視するわけにはいきませんでした。このままでいくと、ふたりはサムに二度めの朝食を所望し、さらにフロドの寝室まで行ってフロドをはた迷惑な方法で起こしにかかるに決まっています。そうなる前に、なんとしてでもフロドを起こそうと、サムは思いました。そこでサムは庭からこっそりフロドの部屋の窓まで行き、窓をコンコン、と叩きました。
「フロドの旦那、フロドの旦那。」
サムは十分小さな声でそう言ったはずでした。しかしフロドはもう起きているようで、すぐにサムのいる窓を大きく開きました。そしていつものようにやわらかい笑顔をサムに向けました。
「おはよう、サム。どうやらにぎやかなお客が来たようだね。」
サムはあぁ一足遅かっただ、と思いました。フロドを起こすのは小さい頃からサムの特権でしたので、大人気なくも、サムは悔しいと思ってしまったのでした。そんなサムの心中を推し量ったのかどうか、フロドははんなり微笑んだまま、うーんと背伸びをしました。
「青い空、白い雲!今日も良い一日になりそうだね、サムや。」
そして窓の外のサムに向かってウインクしながら、小声で付け足しました。
「何か騒動に巻き込まれそうだけどね。」
もう、メリーとピピンの足音がすぐそこのドアに近付いてきていました。

続く