Affected
mind
これは旅の途中でのメリーとピピン(だけでは収まらなかった)お話です。
旅の仲間が裂け谷を出て、まだ数日も経っていない頃、食事の時間のことでした。サムとフロドはまだ新しい仲間と共に旅をしていることに慣れていないのか、それともただ単に色ボケしているのか、裂け谷で暮らしていた頃のようならぶらぶっぷりを今日も発揮して、周りを困らせていました。
「サムや、ほら、顔にじゃがの欠片が付いてるよ。」
「へ?」
「ほら、わたしがとってあげよう。」
「ありがとうございますだ。」
いえ、会話だけを聞いたらなんてことはありません。ちょっと庭師に対して過保護ぎみな主人というだけのことです。(いや、十分にそれがおかしいと思われるかもしれませんが、そこのところはmetanet.comがサムフロサイトだということを踏まえて、あえて目を瞑って下さい。)重要なのは会話ではなくてその行動です。フロドはとってあげようと言ってから、おもむろにサムの顔にその白くて華奢な手を伸ばし、ぐいっと自分の方に引き寄せました。サムはそれに驚くことなく、主人にされるがままになっています。昔から二人の事を知っているガンダルフや、これまでの旅でうんざりするほどそのような光景を見てきたアラゴルンは、「また始まった」と心の中で舌打ちをしてそっぽを向きました。そんな周りを知ってか知らずか、フロドはサムの顔に(しかもほとんどそこは唇でした)ついた食べ残しのじゃがの欠片をぺろっと舌で舐め取ったのでした。メリーはわざとらしく溜息をつき、ピピンはなにやら深刻な顔でじいっとそれを見ています。レゴラスは面白そうにそれを眺め、ギムリはひげに埋もれた頬をちょっとだけ染めてふいっと目をそらしました。彼等はなんだか怪しい雰囲気を最近嗅ぎ取ってきたところだったので、何も言うまいと心に決めていました。しかし可哀想なのがまだそんな風景に慣れていないボロミアでした。
「え?え?」
と、思いっきり顔に疑問符を出しながらぽかんとした様子でそれを見ています。執政の嫡子として大事に育てられ、多少は曲がっているものの父の愛情と、部下の暑苦しいまでの愛に包まれて育ったいいとこのお坊ちゃんなボロミアは意外に純情でした。おまけに武芸に関しては右に出るものがいないほどの腕前なのに、いえ、だからこそこういったことには酷くにぶかったので、こんなあからさまな愛情表現(?)になんだか泡をくっていました。
そんなボロミアの様子を尻目に、とりあえずサムとフロドの一件はこれ以上進展することなく無事終了となりました。今回はそこまででストップです。一同は胸をなでおろし、ボロミアはまだなんとなく解せない表情でいました。さて、このお話はサムとフロドのお話ではありません。そう、これはメリーとピピンのお話です。もうそろそろ本編に入らないといつもどおりのサムフロな展開で終わってしまいそうなので気を引き締めて参りましょう。
さて、こちらはそんなサムとフロドをいつになく真剣な眼差しで見ていたピピンです。ほっとしている旅の仲間達と、何でもないような顔をしているサムとフロドを交互に見ていたかれは、まだ自分の食事を食べかけのメリーを見ました。ピピンはメリーのことが大好きだと人目をはばからずに言うところはフロドと良い勝負でしたが、その眼差しはフロドのようになんだか黒いところがなく、純粋に友達(親戚で親友)を好きだと言っているようにしか聞こえません。さらに言うならばピピンは旅の仲間で唯一の未成年でしたので、みんなから(特にボロミアから)は子ども扱いされており、愛がどうとかこうとか、そういうことには関係ないと、勝手に除外されていました。それはピピンにとっては誠に心外なことでした。ピピンはフロドがサムを好きなように、メリーのことが大好きなのでした。しかしかれにはそれをどう表現したらメリーに悟らせることができるのか分かっていませんでした。おまけにメリーはそういったことに酷く敏感で、ちょっとでもなんだかいつもと違う素振りをピピンが見せようものなら、持ち前の機転のよさで、すぐにその場の雰囲気から逃げ出してしまうのでした。そこでピピンがない知恵を絞って(酷い!)考えたことはこんなことでした。
そうか、サムとフロドの様子をしっかり観察すればいいんだよね!いとこさんの行動は分かりやすいし。ようし、あれをお手本にしよう。
それは、全くもって正しくないお手本だと思われるのですが、かれにはそれが最善の方法に思えました。だから、ピピンはさっきのサムとフロドの様子を早速に試そうと思いました。
「ねえ、メリー。」
慎重に、なるべくいつもの口調と変わらないように気をつけてピピンがそう言いました。
「ん?」
サムとフロドのしょうもないらぶらぶ劇が終わったと思ってほっとしていたメリーは、ピピンの思惑に気が付かずにそう言って振り向きました。その瞬間、ピピンの頭の中で、何かがピーンと音をたてました。そうです、メリーの口もとには、まさにお約束とも言うべきことですが、今食べている固焼きパンの欠片が付いていたのでした。
「メリー・・・」
「どうしたんだいピピン。きみ、目がまん丸だよ。」
「あ、えーっと・・・」
珍しく言葉を濁らせてピピンが言いました。それから、えっと、フロドはどうしていたかなーと思い出しながら眉間にしわを寄せて考え込んでしまいました。
「どうしたんだい?」
メリーがなんだか様子がいつもと違っておかしなピピンの目の前にひょいと顔を寄せて聞きました。メリーはおおかたピピンが変なキノコでも拾ってなべの中にでも入れて食べてしまったとかそういうことだと思いましたので、全くしょうがないやつだとか、なんでも食べるなよとか言う準備は万端でした。しかし、そんなメリーの思考は次の瞬間に一切停止してしまいました。やっと思い出したピピンがとある行動に出たのでした。
「んんー!?」
メリーが声にならない声を出して叫び、ガンダルフがぽろっとパイプを落とし、ギムリがその場から回れ右をして走り出し、馳夫がまた目をそむけた時、起きたことがありました。ピピンがメリーの顔をぐいっと引き寄せ、まさにフロドがサムにしていたことをしようとして・・・それは見事に失敗しました。フロドはあれれ、きみたちもやるねえと言いたげな顔をして微笑み、サムがちょっと頬を染め、レゴラスも物珍しそうにメリーとピピンを見てしまうような光景でした。それはどこからどうみても、ピピンがメリーに熱烈な愛のキスをしている姿に他ありませんでした。声を出そうとしていたメリーは口を少し開けていましたし、ピピンはパンの欠片を舌ですくおうとしていました。しかし顔を引き寄せるタイミングが悪かったようです。ピピンの唇はそのままメリーの唇へとうまいこと重なって、しかもばっちり、まさに恋人同士がするような深い口付けのような格好になりました。
ピピンははじめ、何が起こったのかさっぱり分からず、あれ、なんだかメリーが近いなーとか、唇があったかい?とか思っていましたが、はたとこの状況が分かってしまいました。それは袋小路屋敷でメリーと一緒にフロドの寝室をのぞき見した時に(そんなことがあったのかどうかという考証は後に回しましょう。)サムとフロドがしていたとおりの行動なのでした。それでピピンは、さっきのフロドのまねは失敗したと分かりました。しかし結局フロドのしていたことと同じなので、満足して頭を切り替え、こちらに専念することにしました。
メリーは大慌てに慌てました。メリーはとりあえず常識あるホビットですし、人前でなんかこんなことをするなんてありえないとも思っていました。しかし、ピピンの唇があまりにやわらかくて、なんだか甘いような気がして、しかもピピンが自分の顔から手を離してくれないので、うっかり目を閉じて(うっかり?)しまいました。そして次にはピピンをそっと抱き寄せてしまいました。
ああ、なんということでしょう。一組でさえうっとおしいくらいの熱気のある旅の仲間に、さらにもう一組バカップルが誕生してしまったようでした。ガンダルフは思いました。近いうちにこっそり魔法を使って超強力耳栓でも作ろうと。というわけで、ボロミア以外の仲間たちは、これからの頭の痛くなるようなホビットたちと上手く付き合う方法を考えなければならないと悟ったようでした。
困ったのはボロミアです。かれはどうしてもその行為が意味不明で、さっきから固まったまま頭をフル回転させて考え事をしていました。すると、その肩をぽんっと叩く者がいました。
「まあ、あきらめることだ、ボロミア。この仲間になった宿命だ・・・」
それはいつもより一層疲れてみえるアラゴルンでした。しかしその気遣いはとんでもない言葉で途切れました。
「あの、その・・・わたくしはホビットというものをよく知りません。その、小さな人たちはみなこういったことをするものなのですか?その・・・男同士で?それとも、小さい人には男女の区別がないのですか?」
「何をアホな・・・」
もちろんそんなことはありません。どっと疲れが増したアラゴルンとガンダルフがそう言ったのは同時でした。
「え・・・?え?でも・・・」
今まででこのホビット4人(+ビルボ)しか、ホビットというものを見たことのないボロミアはそれを理解するのに苦しむことになりました。そして、ホビット族の名誉を守るために「この4人はある意味非常に特殊な関係だ」ということを分からせる為、他の旅の仲間は大変な苦労をしましたとさ。
おわり?
|