夜の話
 hope is dream or dream is wish

 

星が瞬く静かな夜。一台のバギーが、ゆるやかな丘のほぼ頂上にとまっていた。そのすぐ脇には二つの影と、その影を作る小さな焚き火があった。影の一つは人間の青年のように見え、もう一つは何か人間よりは小さな生き物のように見えた。なだらかなその斜面には、一面に短い草が生えていた。

「こんな夜は、夢の中にいるような気持ちがするよ、陸」
「そうですね、シズ様」
シズと呼ばれた旅人は、満天の星空を仰ぎ見て言った。
「ああ、気持ちのいい夜だ」

辺りには短い草の中から聞こえる小さな虫の音と、焚き火の音だけが響いていた。沈黙が心地よく、シズはしばらく黙っていた。空から地上へと視線を移したシズは、ふと丘の中腹に灯った、小さな火をみつけた。
「あそこにも、旅人がいるみたいだ。全然気が付かなかったな、陸」
「はい、ここからしかあの焚き火は見えませんね。相当手馴れた旅人のようです」
「そのようだな」
そうしてシズは、ふっと笑顔になった。
「なんだか、キノさんみたいだ」
「あの旅人がですか、シズ様」
「いいや、この夜がだよ、陸。静かで心地よい。でもそれはあまりにつかみどころがなく、存在が夢なのか自分の望みなのか分からなくなる」
「・・・そうですね。あのポンコツモトラドは存在自体が図々しいですが」
「そう言うもんじゃないよ、陸」
「はい」

シズはもう一度、空を仰いだ。
「あそこに見える、旅人の灯に幸あれ」

 

おわり