Remembrance 6 桜色の季節

 

 桜色の季節は嫌いだ。君の声が聞こえるような気がするから。君の悲しそうな顔を思い出すから。

 

 ひらひらと、桜の花びらが舞っている。儚げな薄い色は、ほんの少しだけ桜色に染まって、人工の風を受けて落ちてゆく。昔の人はこの儚さを好んで、月やプラントまで桜を運んできた。どうしてすぐに散ってしまう花に、こんなにも心惹かれるんだろう。刹那の生を、余りに美しすぎる瞬間だけを人の脳裏に焼き付けて、無責任に散っていく。そこにある切なさとか、寂しさとか、悲しさとか。そんなものを全部僕に押し付けて。

 

 桜色の季節はキライ。君の声が聞こえるような気がするから。君のほんの少しだけ困ったような、やさしい瞳を思い出すから。

 

 ひらひらと、桜色の花びらが散ってく。そのほんの数日の命の美しさのために、わざわざ昔の人たちはこの木を宇宙に持ち出したんだって。どうしてそんな事をしたんだろう。そんな事をしなければ、僕だってこんなに悲しくなかったのに。もっと明るい花だったらよかったのに。思い出すと胸焼けがするくらい、鮮やかな血の色のような花だったらよかったのに。そうしたら、花を摘んで持って帰って、花瓶に入れて、もう少しだけ気も晴れたかもしれないのに。こんなすぐ散っちゃうなんて、寂しすぎるよ。ほら、もう枝から覗いているのは綺麗な緑色。君の瞳と同じ色。早くその色でいっぱいになってしまえばいいのに。君の色で、この木が染まってしまえばいいのに。こんな悲しい色じゃなくて。

 

 桜の散る今この瞬間、君は何をしてるんだろう?僕の事を、思い出してくれているかな?

 

おわり