Remembrance
5 〜あいつと俺〜
あいつは俺の太陽。たった一つの光り輝く存在。遠くて、強くて、暖かくて、激しい。誰にも取り替えることの出来ない存在。美しい、この世界の命を支えるもの。 昔、古い文献で読んだ事がある。天空の太陽に焦がれた少年が、羽を蝋で固めて空を飛ぶ話。それは悲しい物語だった。身も心も、天に輝く絶対的な存在に奪われ、近づいてはならないのに近づきすぎて、羽が燃え尽きそして地に落ちる。読んだ時、俺はあまりの衝撃にページをめくる手が震えていた。少年の手にしたものは何だったんだろう。少年の求めたものは何だったんだろう。そんな悲しい物語が、今もなお残っているのには何の意味があるんだろう。太陽とは一体何なのだろうと。人を惹き付け、何もかも奪って、そして最後は身をも焼き尽くす。 読み終わった時、俺の手の震えは止まらなかった。あいつが俺の太陽だと、ずっと信じていたから。太陽に焦がれた少年が、太陽からそんな仕打ちを受けたから。だって、あいつは優しいし、ワガママだし、それでもお人よしだし、バカな事ばっかり言ってるし。物語の太陽なんかと、どこも同じじゃないじゃないか。それなのに、どうして俺はこんなに動揺してるんだろう。どうしてこんなに怖いんだろう。どうしてなんだ?こんなに一緒にいるのに、こんなに楽しいのに、どこか終わりの瞬間をそこは孕んでいて。怖くて怖くてたまらなくなるんだ。どうしてなんだ、誰か答えてくれ!あいつに焦がれた俺が悪いのか、太陽に焦がれた少年が悪いのか。あいつといると、いつも思い出すこの悲しい物語。どうか、俺の太陽よ、俺が作った羽を毟らないで。俺があいつまで飛んでいく翼を奪わないで。だから俺は祈るんだ。ずっと、ずっと一緒にいられるように。あいつに負けない翼を俺が手に出来ますように、と。
つづく |