Remembrance 3 子アスラン

 

 アスランは、どこか遠い目をした子供だった。それは、優秀すぎる彼の頭脳故か、淡白すぎる彼の内なる家族という世界が閉じられていた故か、今になってはアスラン自身にも分からない事だった。

 

 アスランの世界を変えてしまったのは、内なる世界の激震によるものだった。子供ながらにあらゆる世界の秩序を理解していたアスランに、彼はとんでもない衝撃をもたらした。彼のたった一言が、彼のたった一つの行動が、アスランの世界を次々とぶち壊していった。時に乱暴に、時に無邪気に。笑う彼の姿は、アスランに彼以外の存在を忘れさせるほど色鮮やかだった。

 

 キラはわがままだった。甘ったれで、泣き虫で、人見知りが激しく、やりたい事しかしない、やりたくない事には頑として抵抗する。それが可であれ不可であれ。それでもなぜかいつの間にか誰にでも愛される存在になっていた。

 

キラにはアスランにない世界があった。頭で考えても分からない奔放さで、キラはあらゆる壁を壊していった。アスランはよく考えた。どうして僕はあんな無茶苦茶なやつが気になるのだろうと。どうしてみんなもあんな無茶苦茶なやつをその小さな存在で抵抗するわがままを許してしまうのだろうかと。そして必ず途中でキラの声や行動にその考えを邪魔され、結局突き詰めて考える事ができなかった。そしてまたそれをアスランは放棄し、むしろその事を楽しんでいた。ただ、嬉しかった。キラと共に在るという事が。

 

本能で、アスランは分かっていた。これがいかに貴重な出遭いであるかという事も。それ故、いつも突然どこかキラといると寂しさに襲われるのだった。それはいつか失うという事を知っている子供だけが体験する恐ろしい想像だった。何度その胸苦しさに襲われた事だろう。そしてキラの姿を認めると、ほっと胸を撫で下ろすのだった。ああ、まだキラはここにいる、と。

 

  つづく