Remembrance 2 子キラ

 

 キラは、とにかく人見知りの激しい子供だった。一世代目のコーディネイターにしては美しすぎる容姿と、それから持って生まれた大人しすぎる気性がそうさせていたのかもしれなかった。いつもなら、キラの知り合い、特に友達と呼べる存在になるまでには膨大な時間を必要とした。増してやキラが自らそのような存在を求める事は皆無だった。キラの世界は完結していたはずだった。やさしい母と、大きな存在である父。二人の愛を一心に受け、キラの世界は小さくても幸せなものだった。

 

 そこに、碧の火が投げ込まれた。美しすぎる火だった。

 

 カリダのスカートの裾から覗いたそこにいたのは、自分と同じくらいの背格好の少年だった。やわらかく長めの髪が、彼の表情と瞳を隠していた。キラは嫌だった。カリダが引っ込み思案の自分のために、今まで何人「お友達」を連れてきた事だろう。その度に、キラは思い知るのだった。自分はどちらでもないと。ナチュラルの子供にはどこか敬遠され、そして二世代目以降のコーディネイターにはどこか蔑まれ、口には出さない雰囲気で、キラの敏感すぎる心は震えていた。それなのに、彼は違った。何が、どこが、それは幼いキラの頭では分からなかった。でも、彼は微笑んだのだ。自分に向かって。彼の声は心地よかった。あまりに美しい響きを持ってキラの心に届いたのだ。そしてはっと気がついた時には、キラは彼の前まで歩いてきていた。
「君、名前は?」
「キラ。」
つい、口がそう答えてしまっていた。もう引き返せない。何かがキラに警告を鳴らした。それでもキラは、自分の世界をもう彼に壊されていた。もう、なにも恐れる事はなかった。
「そう、キラ。いい名前だね。」
そう言って、花が綻ぶような笑顔がキラに向けられた。キラだけに。深く澄んだ碧の瞳。それはどこまでもどこまでもキラの心に沈んでいって、キラの中をその反響でいっぱいにしてしまった。
「・・・うん!あそぼうよ!」
思わず差し出した手を、彼は取ってくれた。その手は、ほんの少しだけキラよりも冷たかった。心地よいひんやりした感触を逃がしたくなくて、キラはその手をぎゅっと握った。

 

華が咲くような笑顔に、キラの目が奪われていた事を、アスランはとうとう桜の下で離れ離れになるまで知らなかった。

 

 

つづく