Remembrance 1 〜出会い〜

 

 それは、あまりにも平凡な、それでいてあまりにも衝撃的な出会いだった。

 

「ほら、キラ。出てらっしゃい。お友達を紹介するわ。」
嬉しそうなカリダのふんわりした微笑みに、アスランは温かい夢でも見ているような錯覚に陥った。カリダと向かい合うアスランと母レノア。いつもはいかにもキャリア然としたレノアが、珍しく微笑んでいるのだ。それだけで、アスランはここは夢の中ではないかと自分の感覚を疑った。しかしその感覚を決定的にしたのは、カリダの緩く広がったスカートの裾から難しそうな表情で顔を出した小さな存在だった。
「・・・・・・。」
何も言わず、こちらをほとんど睨み付けるように見ているその大きな瞳は、アメジスト色に人口空の色を少しだけ映して、アスランが今まで見た事もないような美しさをしていた。
「・・・・・・。」
思わず言葉を忘れて立ちすくむ息子の頭に、レノアが小さく苦笑しながらぽんと手を置いた。
「ほら、アスラン。貴方からご挨拶なさい。」
母の声はやはり肉声を帯び、それでやっとアスランは夢という呪縛から解き放たれて口を開いた。心なしか、咽喉が渇いて声が出しにくかった。僕は緊張しているのかな?とアスランはどこか朦朧とする頭で考えた。
「はじめまして、僕はアスラン。アスラン・ザラ。今度ここに引っ越してきたんだ。よろしくね。」
内心動揺しているのを悟られまいと、アスランは出来る限りの完璧で社交的な言葉を口にした。すると、カリダのスカートをきつく握っていた手が離れ、そこにいた小さな存在はぽかんと口を開けてフラフラとアスランの方へ進み出た。それはあまりに現実味のない羽が風に攫われるような動きで、アスランは思わず歩を進めた。
「君、名前は?」
つい、そう聞いてしまった。今度は何も頭の中になかった。ただ、純粋に心から彼の名を求めた。それを求めるのが当然かのように。すると、揺れる瞳をさらに見開き、彼が口を開いた。
「キラ。」
はっと、アスランが息を呑んだ。何かが身体に沁み込み、離れなくなってしまった感覚に驚いた。
「そう、キラ。いい名前だね。」
「・・・うん!」
嬉しそうに頷いたアメジストの瞳の少年は、今度こそにっこりと笑って手を差し出した。
「あそぼうよ!」
「うん。」

 

手を取り合って駆け出していく小さな二つの後姿を、カリダとレノアはやさしく見守っていた。
「いいお友達になれそうね。」
「・・・ええ。そうね。」
カリダはただ嬉しそうに、そしてレノアはほんの少しの驚きを込めて見ていた。そこには、未来に待ち受ける運命など予想できるはずもない、平和な風景だけがずっと先まで広がっているようだった。

 

つづく