―― 篝火 ―― 二人の間には、雨が降っていた。 「アスラン・・・。もう、お前と一緒にいる事はできない。これを身につけている事もできない。だから、返す。今までありがとう。これからも、信じている・・・ずっと。」 カガリからアスランが指輪と共に受け取った言葉は、たったこれだけだった。そしてその応えすら思いつかぬうちに、カガリは去った。涙すら流す事を忘れたように立ち尽くすアスランを背に、カガリは涙を雨に隠した。頭上には、まるで篝火のような焔の色をした街灯が一つ、点滅しながらついていた。そしてその明かりすら、彼女と共に去ってしまった。そしてそこには、ただ雨空そのままの色と影と、アスランだけが取り残された。アスランとカガリ、二人の間には、あまりに言葉が足りなかった。それでも、それが二人にできる唯一の事だった。 あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。カガリの背を見送ってからずっと、アスランは雨の中にいた。分かっていた。今のカガリにあの指輪は必要ないものだと。カガリが国とアスランをはかりにかければ必ず国を取るだろう事が。彼女は生まれながらのオーブの子だ。初めてカガリがあの指輪を外し、そして国の代表として立った時からアスランは知っていたはずだった。 ザフトに戻った時、アスランは覚悟したはずだった。世界のために、それは彼女を含めた世界のために、それを守るためになら離れていてもいいと。それでも、アスランは悲しかった。寂しかった。だが、それは本当だろうか?アスランは自分に問いかけた。それが全部、そう、全てが本心だろうか?と。本当に彼女と離れたくなければ、どんな手段でも取れたはずだ。あの時、一言でも言いさえすればよかった。お前と離れたくない、と。ただそれだけで、何かが変わったはずだった。指輪をはめられなくとも、持っていてくれればいいと、ただ、そう言いさえすればよかった。遠くても、お前を信じていると。カガリと同じように。でも、その一言が出てこなかった。いや、どうしても言えなかったのだった。自分の中に、もう一人の存在がいるから。この地に、自分よりも大切な存在があるから。 続く。 |