いつもに増してダメ男なアスランが観察できます。そんなヘタレで双子の間でみっともなく揺れているアスランをお求めでない方はご注意下さい。カガリがやや漢っぽすぎる感もございます。仕事に男を必要としない女達の話だったりします。そして基本はメンタルアスキラアスでございます。依存性アスキラをお求めでない方にはお勧めできかねます。

 

Rainy day

 

  ――明――

 

 あの日も、雨が降っていた。

 

「わたくしは、プラントで成すべき事があります。」
オーブのかつて豊かだった、そして今は戦争の傷跡がまだ残るこの地に細々と雨が降っていた。静かな雨音は耳の奥に残り、それ以外の音を消しているようだった。ラクスがこう話し始めたその時も、そんな日の事だった。
「うん、分かってるよラクス。」
そう答えたカガリは、組んだ自分の手を見つめながらそう言った。その手には、アスランから贈られた指輪があった。そして目の前にはもうとうに冷めた紅茶と、そしてラクスがいた。あまりに世界が静かで、自分の声ですら、もしかしたらラクスには届いていないのではないかという錯覚に、カガリは陥りそうになった。ラクスが、少し沈黙を作ったからだった。しばらく雨音だけが響いており、二人の間にはただ静寂だけがあった。ふと、ラクスが再び口を開いた。
「わたくしは、またプラントに行かねばなりません。そのためには、カガリさん。あなたの力が必要なのです。わたくしがプラントで成すべき事、そしてあなたがこの地上で出来る事、それは同じだと思います。わたくしは、明日一人で発ちます。もう、キラには話してありますわ。」
「・・・そうか。そうだよな。」
「ええ。わたくしの今すべき事に、キラは・・・必要ありませんわ。」
そう言ったラクスは、強い瞳をしていた。普段のおっとりした表情からは想像できないその言葉はあまりに残酷に聞こえた。それでも、カガリには分かっていた。自分がラクスと同じ立場であれば、自分もたった一人で旅立つであろう事が。そして、ラクスが何のためにこの話をしているのかという事も、もう知っていた。
「ああ、分かってる。キラの事は、安心して任せてくれていい。」
そう言ってカガリはすっと立ち上がり、窓辺に歩いていった。外は灰色の雨が降り続いていて、すぐそばにある海ですらもかすんで見えた。
「ラクスは、さ。」
カガリが、窓の外を見つめながら言った。
「いずれ落ち着いたら、キラを呼ぶんだろう?」
「・・・それは、どうでしょう。それをキラが望むのであれば、わたくしは喜んで迎えますわ。でも、キラはまた皆と離れる事は望んではいませんわ。特に、アスランとは。キラは、今一人になる事を恐れていますわ。先の大戦後とは違いますけれど、それでもどこか必死に人の繋がりを求めています。ここには、キラのご両親もいらっしゃいますし、アスランもいる。そしてカガリさん、あなたもいる。言わばここは、キラのゆりかごのようなものですわ。今のキラにはそれが必要なのです。以前の過ちを繰り返さないためには。ですが、わたくしのお仕事に、キラは必要ありません。わたくしはキラと共にある事を望んではおります。でも、それは絶対条件ではありません。」
滔々と流れるラクスの声を聞き終わり、カガリはひとつ、溜め息をついた。
「そうだな。わたしだってそうだ。だから、これはもう要らない。」
ラクスははっとして、今まで自分の指に注がれていた視線をカガリの背中に移した。そこには、カガリが外した指輪を握り締める姿があった。
「・・・カガリさん、わたくしは、そのようには言っておりませんわ。」
カガリからの応えはすぐに来た。
「でも、ラクス。わたしとアスランが一緒にいるのはもう無理だ。ラクスとキラとは違う。ラクスだって、分かっているだろう?あいつの立場では、わたしの側にはいてはならない。それは、絶対条件だ。」
少しうつむいて、ラクスは少しだけ眉を寄せた。ラクスにも分かっていた。カガリは、今や自他共に認める国を背負う者だ。例えどのような愛があれ、どんな絆があれ、敵対していた時勢にザフトのエリートとしてオーブを撃とうとし、そして今はそこさえも脱した者と、繋がりを持てるはずはなかった。彼女は未熟なのだ。どんな些細な事ですら、その髪のように輝く未来を握りつぶす原因となるかも分からない。そう企む者がいても、全く不思議ではない立場なのであった。その事を言わんとしていた自分の残酷さに、ラクスは少し唇を噛んだ。
「悲しく・・・ありませんの?」
そう、ラクスは小さく問うた。まるで、その問いが雨音に消えてしまえばいいと言うように。しかしその声は思いのほか部屋に響き、カガリからはまたすぐに答えがあった。
「・・・悲しいさ。寂しいしな。でも、しょうがないんだ。あいつには、本当に悪いと思っている。でも、もう二回目だ。とてもわたしだけの力でどうにかできる問題じゃない。わたしは、あいつを幸せにしてやれないし、あいつはわたしを幸せにする事はできないだろう。だから、これをもう二度わたしはこの手につけることができない。」
「そう・・・ですか。」
「ああ、そうだ。だから、これはわたしじゃない誰かがつければいい。」
そう言ったカガリの瞳は、この雨の向こうに見える、明日へ続く光を見ていた。
 

続く。