この物語は、登場人物の行動・描写が暴力的かつ過激になっております。15歳以下の方の閲覧を禁止いたします。また、悲劇的要素を多々含みます。そういった表現が苦手な方にはお勧めできかねますのでご注意下さい。
Lament
Angel 3
珍しく、静かな日だった。今日は子供たちとキラの両親が教会に出かけていた。誰もいない家の中はとても静かで、波の打ち寄せる音と、風が自分の髪を揺らす音しか聞こえなかった。遠い街の喧騒ですら、キラには聞こえてこなかった。美しい日だった。キラは海辺の椅子に座り、海を見ていた。しかしその視線は以前の大戦後とは違って、ただ海を愛でている優しい目だった。ふと、キラの視線を横切る緑のものがあった。キラが肩を見ると、そこにはいつもどおり緑のマイクロユニットがいた。主人の視線に応えるかのように、鳥型ロボットは首をかしげて鳴いた。
『トリィ?』
という事は、さっきのは・・・キラがぼんやりそんな事を思っていると、後ろから誰かが近づく気配がした。それは、良く見知った気配、温かくやさしい彼のものだった。にっこりと笑って、キラは少しだけ後ろを向いた。
「おかえり、アスラン。」
そっと、その肩からマイクロユニットが飛びたち、その作り主に乗り移った。ふと軽くなったキラの肩に、今度はアスランの手が置かれた。その指先は温かかったが、アスランの瞳は少し冷たいようにも見えた。そんな目を長い間見ていたくなかったキラは、そっと話はじめた。
「あそこにいるあれ、君の鳥だよね、アスラン。君が外に出したの?」
「いや、放したんだ。俺のいない間ずっと、あの小さな籠の中にいたんだろう?自由に・・・してやりたかったんだ。」
そう言ったアスランの目は少し苦しそうだった。アスランが今回オーブ政府で、何を見聞きしてきたのか、キラには分からなかった。それでもキラは、アスランを楽にさせたかった。だから、わざと明るい声を出した。そう、まるで先の大戦の時にアスランがキラにしてくれたように。
「でも、戻ってきたね。ずっと、遠くには行かずに僕の見える所で、円を描いて飛んでいるよ。きっと、あれはここにいたいんだよ。アスランの側に。ううん、もうここしかいる場所がないって思ってるんだ。だから、そんな事言わないで、ね?」
そうしてキラはアスランの手に自分の手を重ねた。
ふと、キラがアスランを見上げて、胸元からペンダントを引っ張り出した。
「これ、君にあげるよ。」
「え?」
突然、キラが立ち上がって自分の目の前に出したそれに、アスランは少し驚いた。
「はい、アスラン。これ、本当は、悲しみの守護天使って言うんだって。カガリに教えてもらった。人の持ちうる一番の悲しみから、それを持つ人を救ってくれる女神なんだってさ。これは、今の僕より君が持っていた方が良い気がする。」
アスランの手のひらに置かれたそれは、まだ温かく、キラの体温を感じ取れた。
「ありがとう、キラ。・・・きれいだ。初めてこれを見た時も思ったよ。でも、カガリはキラに・・・」
「うん、分かってる。でも・・・これは君が持っていて。僕だと思って。」
アスランを遮るように言われたその言葉は、アスランに冷たい予感を感じさせた。それはあまりに鋭い胸の痛みであり、アスランは思わずキラを抱き締めた。
「どうしたの?アスラン。ねえ、どうしたの?」
「そんな風に言うなよ、キラ。まるでお前が、いなくなるみたいじゃないか。」
「そんな事、ないよ。大丈夫、大丈夫だから、ね?アスラン。」
ぽんぽんと、キラはまるで泣いているように少し震えるアスランの背中をそっと叩いた。
続く。 |