この物語は、登場人物の行動・描写が暴力的かつ過激になっております。15歳以下の方の閲覧を禁止いたします。また、悲劇的要素を多々含みます。そういった表現が苦手な方にはお勧めできかねますのでご注意下さい。

 

 Lament Angel 27

 

 一人で立てるようになると、キラはラクスとカガリに自分を連れ出すように頼んだ。空の見える広い場所へと。今はまだ暗い夜明け前。それでも行きたいと縋る様な目で訴えるキラを見、カガリの心は揺れた。このまま行かせてはならない。キラを失うわけにはいかない。キラだけは失いたくない。今はまだ、ここに・・・。それでもキラの瞳は揺るがなかった。だから、ラクスは許しを与えた。心からの赦しを。
「いってらっしゃい、キラ。」
少し驚いたように、キラとカガリはラクスを見た。そこには、にっこりと優しく微笑むラクスがいた。それはまるで、全ての世界を包み込むような笑顔だった。
「カガリさん、付いていってあげてください。キラが道に迷わぬよう。ここに、帰ってこられるよう。」
はっとカガリが顔を上げた。
「ああ、必ず帰る。」
キラに肩を貸し、カガリははっきりとそう言って立ち上がった。

 

 カガリがキラを連れて来た場所は、地平線の見渡せる広大な場所だった。かつてオーブの中心地として栄えたそこは、戦争によって平らな、元ある姿に戻らされていた。そこからは、夜空と東の空がよく見えた。暁が、近い―――

 

 立ち尽くす大地。キラの中で、アスランがいた記憶だけがあふれ出した。そこよりも深い深い涙の海に、キラは溺れそうになった。そこには、永遠を願う瞳があった。その瞳のまま、キラは明けゆく暁の空を仰いだ。まっさらな生まれいずる水のように、清らかな魂を空に捧げるように、キラは両手を太陽に差し伸べた。夜明け、それは魂が最も肉体から離れる時だった。地上を射す光と、天上に灯る星の光が交差する瞬間。やがてその危うい均衡の上に成り立った時は失われ、太陽の光が地上を多い、現実の世界がキラの元に晒された。それが悲しくて、ひたすらに悲しくて、キラは声も出せずに泣いていた。それは、アスランのいないこの世界で、生きるための、最後の悲しみだった。その姿はあまりに儚く痛く、カガリはキラから目を背けた。その先には、美しすぎる暁の光があった。それは何者にも遮られる事なく、何を語りかけるでもなく、ただそこに存在しているだけだった。