この物語は、登場人物の行動・描写が暴力的かつ過激になっております。15歳以下の方の閲覧を禁止いたします。また、悲劇的要素を多々含みます。そういった表現が苦手な方にはお勧めできかねますのでご注意下さい。
Lament
Angel 22
ラクスからのカガリへの個人的な連絡と、男からのオーブ政府への通告は、ほぼ同時だった。政府は代表首長を言葉通り叩き起こそうとし、そこに既に起きて真っ青な顔をしたカガリを見出した。そして真実が確かめられぬまま会議室には光が灯った。解決策も問題の全体像もまだ何も掴めぬ会議を抜け出したカガリは、身近な者だけを連れて、真夜中であるにも関わらずラクスの元へと急いだ。
『何故、どうしてアスランを失わなければならない!』
そればかりがカガリの頭の中を駆け巡っては答えの出ない問いを撒き散らすばかりだった。
「どういうことだ、アスラン!」
真っ暗な夜に、煌々と輝く明かりが点ったラクスの家に入るや否や、カガリはそう叫んだ。
「カガリ様。」
クライン家の者が出迎えているのも見えぬかのように、カガリはラクスに背を預けてぐったりとしているアスランに問いかけた。服は変えられ、顔に付いていた血飛沫は拭き取られていたが、まだ髪には黒くなった血液がこびり付いていた。その血の臭いに一瞬顔をしかめ、カガリはアスランの肩を揺さぶった。それでもなお、アスランは目を開ける事すらできなかった。
「カガリさん・・・」
懸念顔で眉をしかめたラクスに、カガリは必死に訴えた。
「ラクス、アスランと話させてくれないか。これは、アスランとわたしの問題だから・・・お願いだ。」
「・・・分かりましたわ。アスラン、カガリさんですわ。」
すると、何かの呪縛から解き放たれたかのように、そっとアスランが目を開いた。それは相変わらず美しい色でありながら、光がなく闇に満ちていた。その瞳をまっすぐ見つめながらカガリは続けた。
「アスラン、答えろ!お前の言っている事と、犯人の言っている事が一致している!キラが・・・」
そこでぐっと奥歯をかみ締め、カガリは浮かびそうになる涙をこらえて叫んだ。
「キラが、生きているって・・・!」
ふと、アスランがカガリを見た。アスランは今まで光のない場所を歩いてきた人のように、眩しそうに目を眇めた。
「その通りだ、カガリ。キラは、生きている・・・。」
カガリという光に触れたせいか、口をついて出てきた言葉は、ラクスが思っていたよりもずっとはっきりとその場に響いた。はっとして、カガリはアスランを抱きしめた。まるで、ラクスと共にアスランを子供のように抱いているようだった。そして、アスランの耳元で零れる涙を流しながら聞き取れぬほど小さな声でカガリは言った。
「アスラン・・・お前、どうしたい?わたしは国を背負っている。お前のしたいようにできないかもしれない。でも、キラは生きているんだろう?今まで、お前が何をやってきたか、知っていて黙っていた。それだけで、お前を守っているつもりだった。でも、それもやっぱりつもりでしかなかったのかな・・・。お前の行く先を、こんな風に選ばせるわたしは・・・何て残酷なんだろうな・・・。でも、アスラン、もういい。もう何もしなくてもいいんだ。お前、楽になりたいんだろう?お前、どうしたい・・・?」
「キラが、生き続けられるなら・・・それでいい。」
カガリの言葉に、アスランは小さく、だがしっかりとそれを言葉にした。初めて意思を持った人のように。
はっと、アスランの言葉を聞いてラクスは身をカガリから離した。ふっとアスランの体重がカガリに移り、ラクスは涙を隠す事ができずに泣いていた。キラを取り戻せる、その可能性はアスランを失ってはじめて手に入れられるものだったからだ。もう、何もなくしたくはなかったのに。とめどない涙は次から次へと溢れて頬を濡らしていった。
アスランの体温が、すぐそこに感じられた。それなのに、カガリは選ばなくてはならなかった。ここにある微かな温もりか、まだ取り戻していない遠い存在か。国が、立場が、カガリに選ばせた。アスランではなく、キラを。ぐいっとアスランを起こし、顔を乱暴に拭ったカガリは立ち上がった。そして、強い声で言った。
「要求に応じる。ただし、犯人と接触するのはわたしとアスランのみだ。」
その瞳には悲しみすらも越えた何かがあった。誰も、何も言えなかった。
続く。 |