この物語は、登場人物の行動・描写が暴力的かつ過激になっております。15歳以下の方の閲覧を禁止いたします。また、悲劇的要素を多々含みます。そういった表現が苦手な方にはお勧めできかねますのでご注意下さい。

 

 Lament Angel 21

 

「もし私が戻らなかったら、兄さんは逃げて。」

そう言い残して去った妹は、二度とここには戻らなかった。男の最後に残った、たった一人の肉親だった。美しい女だった。強く、やさしく、そして冷たい女だった。囚われた弟が殺されてから、唯一の男の慰めだった。もはや弟がいない今、組織の復興は難しくなっていた。だが妹とこいつがいれば、男はまだ何でもできると思っていた。しかしそんな最後の希望も消えた。たった一人取り残された男は、何度目になるか分からぬ、だが最大の絶望に苛まれていた。妹を殺した者を消滅させる事ができるならば、それでもう十分だと思えた。もう、世界も組織も金も権力も何もかもがどうでもよくなっていた。ただ、妹の命を奪った者を殺したかった。ただ、それだけだった。故に、男はオーブ政府に要求した。

 

「代表の弟はまだこちらの手にある。弟を、いや、『最高のコーディネイター』と、もしくは『フリーダムのパイロット』と呼ぶべきか。その者を返してほしくば、巷で『緑の天使』と呼ばれている者をこちらに引き渡せ。たった一人の者と、世界の運命を変えるほどの者とを交換しようと言っているのだ。悪い取引ではあるまい。代表の弟が、先ほど述べた者と同一人物である事に気がついている者はごく僅かだ。いくらでもほしがる者はいる。取引は代表と『緑の天使』、こちらと人質の四人だけで行う。指定した場所に時間通りに来い。取引に応じなければ、即刻他の組織に引き渡す。取引せぬほど愚かな貴国ではあるまい。賢明な判断を願う。」

続く。