この物語は、登場人物の行動・描写が暴力的かつ過激になっております。15歳以下の方の閲覧を禁止いたします。また、悲劇的要素を多々含みます。そういった表現が苦手な方にはお勧めできかねますのでご注意下さい。

 Lament Angel 20

 

 それは月のない漆黒の闇のような夜空を覗かせる晩だった。何か胸騒ぎがして眠れないラクスの元を、深夜に一人の人間が訪れた。微かにドアを叩く音がして、はっとラクスは寝台から起き上がりドアに向かった。静かにロックを解除すると、そこにはアスランがいた。
「アスラン!」
思わず息を呑んでラクスがその名を呼ぶと、アスランは少しだけ視線を上げた。黒く染まった服、顔にまで飛び散った誰かの血液。その中でアスランの肌だけが、ぼうっと白く浮かび上がっているようだった。緑の目は光もなく、視点の定まらぬぼんやりとした表情をしていた。ふらっとアスランの身体がラクスへと傾いた。思わず手を出しだしたラクスに抱きとめられ、アスランの足はそのまま体重を支えきれなくなったかのようにラクスに倒れ掛かった。
「どうなさったのですアスラン!」
明らかに様子のおかしいアスランに、ラクスは強い声で呼びかけた。
「アスラン!しっかりなさってください!」
すると、小さくアスランが口を開いた。
「キラは・・・生きている・・・」
はっと息を呑んで、ラクスはアスランを見つめた。その頬は誰の物か分からない血で汚れていたのに、その閉じた目と唇には、微かなほほ笑みがあった。
「アスラン!何と!今何とおっしゃいましたの?アスラン!」
それでも、アスランはもう一言も話そうとはしなかった。ばっと屋敷の中を振り返り、ラクスは叫んだ。
「誰か、カガリさんに連絡を取ってください!今すぐにです!」
 

 騒然とする屋敷の中で、たった二人だけが沈黙を保っていた。アスランと、そしてラクス。二人の顔は同じように蒼白だった。
「アスラン、もうすぐカガリさんがいらっしゃいます。そうしたら、しっかりお話できますわね?」
震える唇を、青ざめる顔を、気丈に保ったままラクスはそう言った。痛々しいほどにしっかりとした声だった。それに安心するかのように、その腕にもたれかかったまま、アスランは小さく頷いた。

続く。