この物語は、登場人物の行動・描写が暴力的かつ過激になっております。15歳以下の方の閲覧を禁止いたします。また、悲劇的要素を多々含みます。そういった表現が苦手な方にはお勧めできかねますのでご注意下さい。

 

 Lament Angel 15

 

アスランは、一人ずつ確実にこの事件に関わった者を殺していった。そして出来た死体の上に、必ず緑の羽根を落としていった。それはあの鳥のように、キラに命を捧げた者として。たった一つの殺人者の手がかりは、誰にも結びつかず、アスランが見つかる事はなかった。たった一人ラクスを除いては、誰もアスランの存在をこの死体の山の裏に見つける事はできなかった。  

いつしか体に染み込んだ他人の血液は、洗っても洗っても、身に纏わりついてアスランを苛んだ。鉄錆の臭い、慣れていたはずの死臭。それなのにどうしてか、いつまでもそれはアスランから離れようとはしなかった。今まで感じた事のなかった、感情とはかけ離れた所にあるそれを落とそうと、アスランは冬の海に入っていた。もう、感覚などなかった。

波に浮かぶ丸い白い月。いつか彼と共に居た場所。例えそこに軍事施設しかなかったとしても、それはアスランにとっての平和の象徴だった。安らぎの場所は今も遠く、遠すぎて焦がれて胸が焼かれるようだった。その月をせめて水面から手に入れたいと、アスランは胸まで浸かった海水をそっと手で掬ってみた。手が動かしにくかった。それでも、冷たいとか痛いとか、もうそんな心はどこかに置いてきてしまったようだった。自らが生み出した小さな波で、白い月は壊れて散っていった。手に残ったのは、ただの暗い水だけ。波間には、また幻のような月が浮かんでは揺られていた。パシャっと音をたて、アスランは手に取った水を落とし、腕を力なく下げた。
「・・・キラ。」
空を見上げると、そこには確かに本当の月が浮かんでいた。手を伸ばしてみる。届きそうだった。すぐそこにあるようだった。彼の笑顔も、寂しそうな横顔も、強い瞳も、そしてやわらかく温かい思い出も。しかしそれは決して届かぬ願いだった。埋められようもない距離は、アスランからまた一つ何かを奪ったようだった。早くそこに帰りたいと、アスランは思った。
「もう少しだから、キラ・・・。」
小さく呟いた表情は微笑んでいたが、どこか歪んで見えた。瞳は遠くを見つめ、そして涙は涸れ果てた様に、そこからこぼれ出ることはなかった。  

そしてそれを静かに見守る者と、それを初めて目にする者がいた。

続く。