この物語は、登場人物の行動・描写が暴力的かつ過激になっております。15歳以下の方の閲覧を禁止いたします。また、悲劇的要素を多々含みます。そういった表現が苦手な方にはお勧めできかねますのでご注意下さい。

 

 Lament Angel 12

 

 アスランは、この国の闇へ降りていった。暗黒街の地下深くへと螺旋を描く階段は、一歩進むたびに黒い空気の密度が濃くなっていくようだった。耳を潰すような喧騒とそこから溢れる音。どこからか流れ落ちてくる汚れた水の滴り。赤い光に群れる害虫のように蠢く人々。息をするのさえ苦しくなるような空気の中に、その男はいた。男は、降りてきたアスランの容姿を見て、卑下た笑いを顔に浮かべた。しかし一瞬後、上着に隠された銃口がまっすぐその額に当てられている事を見て取り、笑いを顔に貼り付けたまま固まってしまったかのように呆然とした。その一瞬に、アスランは男を後手に捻りあげ、その見た目からは想像できない力でさらに奥の部屋へと男を引っ張っていった。

「誰に言われて来た!上のやつらか、それともオーブ政府か。」
分厚い壁に囲まれたその狭い部屋には、男とアスランと、床に転がった何かが腐敗したものだけが存在していた。外の世界の喧騒も、ここには微かにしか届いていなかった。壁に男を押し付け、その背に銃口を押し当てたまま、アスランは冷ややかに男を見ていた。
「・・・誰でもいい。どうせ、もう二度と光など見えない。」
その声のあまりの冷たさに、男は青ざめた顔で叫んだ。
「何でも話す!話すから、助けてくれ!許してくれ!」
「何を許せばいい?」
アスランは、少し笑いを含んだような声でそう言った。
「上の者の居場所を教えろ。」
「知らねえよ。」
肉が何かに打ち付けられる鈍い音がした。銃を握ったまま、アスランが男の体を横薙ぎに払ったのだった。
「がっ・・・はぁ・・・!」
床にうつ伏せに倒れた男は、わき腹を押さえ、がくがくと震えながら叫んだ。
「俺は組織の下っ端だ!そんな奴らの居場所なんて知らねえ!オーブに仲間が一人捕まっちまってた。そのうちそこから何が漏れるか分からねえ。だから俺はそいつを消しただけだ!それだけで俺は組織を追われてるんだ。知る訳ないだろう!それにそんなもの知って、どうす・・・」
男はまだ何かを言おうとしたが、それが終わらないうちに、男の耳に衝撃が走った。そしてその数瞬後に激痛が男を襲った。銃口からは細い煙がたなびいていた。
「ぐ・・・、ああー!」
耳がそこにあったはずの場所から滴り落ちる真っ黒に見える噴出す血を押さえ、男はアスランを恐怖の眼差しで見つめて早口にまくし立てた。
「三区画先の地下街だ!ここみたいな階段を下っていくと、その一番奥に赤い部屋がある。そこに太った女がいる。そいつだ、そいつにいつも俺は上の指示をもらう。それ以上は何も知らねえ!」
「・・・・・・。」
ふと、アスランの殺気が薄らいだ気がして、男はほっと息を吐いた。そしてぐっと腕を掴まれてアスランの目の前に立たされた。男がにやっと笑ってアスランを見ると、そこにはまだ熱い銃口があった。
 

 男の額を打ち抜いた銃声は壁に阻まれ、そして人々の出す音に紛れ、誰にも気が付かれないうちに消えていった。床に滲み出した血液に、ふわりと緑の羽根が落ちて美しい波紋を描いた。真っ赤な液体に染まる緑の羽根には、真っ黒な染みがじわりと滲んでいた。

続く。