この物語は、登場人物の行動・描写が暴力的かつ過激になっております。15歳以下の方の閲覧を禁止いたします。また、悲劇的要素を多々含みます。そういった表現が苦手な方にはお勧めできかねますのでご注意下さい。

 

 Lament Angel 11 

 全てを終わらせる前に、アスランはキラのいた海辺の家を訪れた。この世の全てに別れを告げるために。ヤマト夫妻と子供たちは別所に移され、そこには明かりも温もりも安らぎも、そこに以前あった全てのものが取り去られていた。ただアスランが近づくと、冷たい風に吹かれキィと音を立てて扉が開いただけだった。

 目の前を、緑色の何かが横切った。はっとしてアスランが目で追うと、それは一枚の羽根だった。アスランの、名のない鳥。アスランが逃がそうとしたあの日から、それはずっとキラが世話をしていたのだった。
『アスランに任せておくと、なんだか心配だから。』
そう言ってキラは、小さく笑っていた。その笑顔がまだそこにあるようで、アスランは落ちた羽根を拾おうとその場にしゃがんだ。ふわっと風が後ろから吹き抜け、伸ばした指先から羽根が逃げていった。急に、体温と過去が去っていくようでアスランは眉を寄せた。しかしその羽根のたどり着く先には、もっと大きな緑色のものが転がっていた。床に置かれた大きな籠に入れられたそれは、もう冷たく硬くなっていた。そしてその周りには、無数の羽根が散らばっていた。そこには生きるための全てが備わっていたはずだった。それでもこの鳥は、自らこうなる事を選んでいた。まるでキラのいない今、存在してはならないもののように。急に、涙が浮かんでアスランは唇を噛んだ。どうしようもなく感情が溢れ出て、アスランはその場に立っていられなくなった。頭が床に着くほど屈んだアスランの胸元から、コンと小さな音をたて、天使が床に落ちて当たった。アスランはそれを握り締め、そして泣いた。キラの言葉が、胸を締め付けて息ができなかった。
『・・・これは君が持っていて。僕だと思って。』
「キラ・・・!キラ・・・駄目だよ、こんな小さい羽根じゃ、俺を包んではくれない・・・!」
血を吐くような痛々しい声は、それ以上の言葉を紡ぐことができなかった。それでもとめどない涙はもうこれが最後と、アスランは唇を血の滲むまでかみ締めた。涙の代わりに、真紅の液体がつと唇を伝い、アスランはそのままそっと床に口付けた。彼がいつかいたこの場所に、彼がいつか立っていたこの場所に、最後の口付けを。
 

そしてもう二度と、その家にアスランが足を踏み入れることはなかった。

続く。